4つのケアと安全配慮義務

2016-04-27

企業の中でメンタルヘルス対応を行うにあたり、メンタル不調者が生じにくい働きやすい職場環境を作ることが、最も重要でかつ根本的対策ではあります。

しかし、一方でやはり、上司・人事労務担当者にとって気になるのが、「既に生じてしまったメンタル不調者に対する会社の対応が、安全配慮義務違反とならないか」という点ではないでしょうか。

昨日の報道でもありましたが、製薬会社S社の当時47歳男性が自殺した事件においても、

『男性は仕事上のミスが急増し、「自分は仕事が遅い」と発言していたこと等から、上司は自殺の2日前には、男性がうつ病などを発症していることを認識可能であった。男性の仕事を軽減する等、対応をしていれば自殺は防げた可能性が高い』

と裁判所は判示したとのことです。まさに、メンタル不調者にどのように対応すべきかが問われています。
(判決文を読んでいないので詳細はわかりませんが、仮に報道された通りだとすると、自殺の2日前に発症を認識したとして、仕事量を減らせば自殺が回避できるものなのか個人的には疑問です。そのような自殺が切迫した非常に悪い病状であれば、仕事を減らすうんぬんではなく、即刻仕事から離れ、家族に連絡しすぐに病院受診・入院をしなければ自殺は回避できないようにも思いますが…。)

 

そこで4つのケアと、安全配慮義務の関係について考えてみたいと思います。

4つのケア

まずは、4つのケアについておさらいです。

①セルフケア  

労働者自身による、  
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスへの気づき
・ストレスへの対処

➁ラインケア

管理監督者による、
・職場環境等の把握と改善
・労働者からの相談対応
・職場復帰における支援

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医等の保健スタッフによる、
・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
・個人の健康情報の取扱い
・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
・職場復帰における支援

④事業場外資源によるケア

・情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
・ネットワークの形成
・職場復帰における支援

安全配慮義務上、最も重要なのはラインケア!

安全配慮義務を履行する上では、上記の4つのケアすべてが重要であることは言うまでもありません。

しかしこの中でも、安全配慮義務の観点から特に重要であると私が考えるのは、ラインケアであり、その中でも特に、「管理監督者が労働者からの相談を受け、または不調に気付いた場合に、確実に産業保健スタッフ等へ繋げる」ことです。

なぜなら、これが機能しなければ、どんなに素晴らしく優秀な産業保健スタッフ・事業場外資源をそろえても、メンタル不調者がそこまで繋がらず、職場で放置され病状を悪化させる事態となりかねないからです。

管理監督者が、部下の不調に気付くには、いつもと違う様子に早く気づくことが重要です。
例えば、それまで遅刻をしたことがなかった部下が遅刻を繰り返したり、無断欠勤をしたりする、仕事の効率が落ちている等です。これらが見られたら、管理監督者は一人で抱え込まず、医療の専門職である産業医等に繋げるようにしましょう。人事部等に相談して指示を仰ぐのも良い対応と言えます(人事部等が産業医との連絡窓口になっているケースが多いですし、また、遅刻・欠勤は人事マターですから)。

ただ、繋げたところで、産業医が名義貸しであったりメンタル対応ができない等、産業保健スタッフが機能していないと意味がありませんので、そこの体制整備をしっかり行うことも企業にとって重要です。

なぜ安全配慮義務上重要か?予見可能性との関係

安全配慮義務違反となるには、結果(=病気、自殺等)に対する『予見可能性』が必要になります。

「予見可能性がない」とは例えば、会社での様子は全く元気で、一緒に働く誰もがメンタル不調があるとは気付かなかった人が、うつ病になってしまった場合が挙げられます。その場合には、一般的には(長時間労働等をさせていなければ)、安全配慮義務違反とはなりにくいと言えます。

一方、管理監督者(又は一緒に働く同僚)が、本人の不調に気付きながら、産業保健スタッフ等に繋げていない状態は、『結果に対する(=うつや自殺に繋がってしまう)予見可能性』があるのに、なんら適切な対応をしていない状態であり、非常にまずいと言えます。

私が過去に経験した事例では、メンタル不調の症状が出ている労働者が、上司に診断書を提出したにも関わらず、その上司は自分のところで診断書を止め誰にも報告しておらず、その労働者が休職してはじめて、診断書が出ていたことが発覚したことがありました。その会社には、診断書が出た場合にはどうするかという統一ルールが無かったのです。『診断書がでている=思いっきり予見可能性がある』ですので、このような対応は非常にリスキーと言えます。

このような事態を避けるためには、

①管理監督者に対し、部下の不調に気付くためのラインケア教育を行う

➁部下から相談を受けたり、不調に気付いた際の対応方法(産業保健スタッフに繋げるための窓口へ報告する等)を周知する

最低限、この2つは必須であろうと思われます。

ストレスチェック制度が始まり、検査を実施することや医師面接を行うことばかりに気を取られがちですが、ストレスチェックは職場におけるメンタルヘルス対応のごく一部に過ぎず、上記のような基本的な体制をしっかり整えておくことも重要なのです。

 

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