産業医の中立性について

2018-05-10

法改正で、産業医の中立性・誠実義務が法制化へ

前回のブログ記事においても紹介しましたが、労働安全衛生法の改正案が現在国会で審議中であり、成立すれば来年度から施行される予定です。

その中では、「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない」との条文が追加されています。
誠実に職務を遂行するという、医師・産業医という専門職であればごく当たり前のことが、わざわざ法律に追加される理由としては、産業医の中立性が疑われるような事件が度々起こっているからです。

労働法関連の法改正等の重要事項に関しては、厚労大臣の諮問に応じて労働政策審議会で調査・審議されることになっていますが、この条文追加に際しても当然ながら審議が行われています。その中でも、有識者からのヒアリングが行われており、誠実職務遂行義務の追加に関して「倫理的な事項であり、当然産業医に求められている内容なので、あえて法令に記載する必要性は感じない。むしろそのような規定を設けざるを得ない問題が生じていることに懸念を覚える。」との意見も記載されています。

 

ブラック社労士問題、ブラック産業医問題

そのような状況の中、またも目を疑うようなニュースが、本日共同通信社よりリリースされていました。以下、引用します。

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パワーハラスメントで休職後、復職を認めずに退職扱いとしたのは不当だとして、社会保険労務士らの事務組合で働いていた女性(44)と男性(41)が、職員としての地位確認を求めた訴訟の判決で、横浜地裁は10日、退職を無効と認め、未払い賃金の支払いを命じた。

新谷晋司裁判長は、産業医が「統合失調症」「自閉症」と判断し復職不可としたのは「合理的根拠がなく、信用できない」と指摘。健康状態は回復していたと認定した。

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これだけ見ると、産業医が病名を付けているように思われます(判決文を見ていないので断定はできず、詳細はわかりませんが)。
神奈川新聞の記事を見ると、主治医の診断とは違う病名を付けたのかもしれません。(過去のパワハラ裁判については、判決文が公表されていますのでそれを見ると、主治医からは「うつ状態」と診断されているようです。)

こちらの記事にも載せていますが、まともな産業医は、労働者に対して診断して病名を付けません(逆にいうと、産業医が主治医とは違う病名を付けて来たら、労働者の方は警戒した方が良いでしょう)。
特に、統合失調症や自閉症という診断は、基本的には完治ということはない等の側面から、本人やご家族への影響が大きく、産業医が主治医の診断を否定して病名を付けることはまずありえません。もし万一あるとしても、後々トラブルになる可能性も高いので、相当慎重に、確実な根拠をもって診断しなければなりません。主治医の診断を否定して病名を付けるのですから、当然です。
今回のケースのように、パワハラ裁判で労使間で相当揉めている状況下で、あえて統合失調症や自閉症という主治医と違う診断を下して、復職不可と判断するこの産業医の先生は、色々な意味で本当に凄いと思います。

 

ブラック社労士が3年前に問題になりましたが、今回は社労士事務組合と産業医のコラボレーションで、ついにここまで来たかという印象です。
医療の専門科ではない裁判官から、診断について「合理的根拠がなく、信用できない」と言われてしまう産業医ってどうなのでしょうか。神奈川新聞の記事が本当なら、「到底信用できない」と『到底』まで付いており、医師の診断がそこまで言われてしまうとは、余程のことです。

また、事務組合の社労士の誰かが、専門家の目から見て、このやり方はまずいと止めれなかったのでしょうか。

産業医は信用できるのかという問題になりかねない

このようなことが頻発すると、労働者は産業医全般を警戒し、まともに話をしてくれなくなります。

真面目に活動している大部分の産業医にとって、非常に迷惑なので本当に止めて頂きたいと感じます。

また、厚労省や医師会等は、偏った意見を出すことは倫理的にも許されないことに加え、産業医自身のリスクにもなること、産業医はあくまで労使間から一定の距離を持って中立性を保つことを、産業医に対して教育すべきではないでしょうか。「人事の仕事にもフルコミット。肩たたきも引き受けます。」というようなことをホームページで公表して売りにしている産業医もいる現状では、産業医への社会的信頼はかなり危ういのではないかと思います。企業側も、産業医は首切りに利用でき、それをするのが良い産業医だと、誤解しかねません。

会社は、根拠のない偏った意見を出す産業医を雇うことは、リスクのあることだと認識すべきです。労働者を解雇するために、産業医を利用してうまくいったと思っているのかも知れませんが、結局出るところに出ればそれが露見し、「産業医を利用して解雇するブラック企業」の汚名をかぶることになるのです。そのような事は今の時代、インターネット上ですぐに広がりますので、人材採用に相当の支障が出てますし、現在働いてくれている労働者に対する産業保健に関しても、かなりの悪影響が出るでしょう。

 

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