労使紛争における合理的配慮と産業医の役割

2016-02-01

前回の記事からの続きです

 メンタル不調の事例で訴訟になっているケースもある

日本電気事件(東京地裁平成27年7月29日、労働判例1124号)では、労働者側(代理人は労働者側専門労働弁護士の先生)が障害者雇用促進法に基づく合理的配慮を主張しています。この訴訟では、アスペルガー症候群で休職満了、自然退職になったのは不当であると労働者側は主張しましたが認められず、会社が勝訴しています。判決文を読む限りでは休職期間満了・自然退職に向けた手続きにほとんど不備はなく、しっかり証拠も積み上げているように個人的には感じました。

 一方、今年の抱負の記事で、メンタルヘルスに関する今年のトピックス予想でも上げさせて頂きましたが、「合理的配慮義務」が労働者側の主張のひとつとなり得るのだなと再認識しました。

ただ、合理的配慮義務が法制化されたからと言って、企業内のメンタル不調者に対して企業がやるべきことが特段大きく変わるわけではないと思います。特に、今までもすでに、法にのっとり適切にメンタル不調者への対応を行ってきた会社であるほど、特に変わりはないと思います。なぜなら合理的配慮と安全配慮義務は考え方として重なる部分が多いからです。

 

労働者の主張が企業に無理を強いるものであれば、「それはできません」とNOと主張し、法的に求められる可能な範囲の適切な配慮(=合理的配慮)を検討すればよいのは安全配慮義務と同じであり、実際にこの訴訟でも裁判所は「合理的配慮の提供義務も、当事者を規律する労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う義務を事業主に課するものではない。」「使用者に対し、障害のある労働者のあるがままの状態を、それがどのような状態であろうとも、労務の提供として常に受け入れることまでを要求するものとはいえない。」として、労働者側の主張を退けています。

 

産業医の役割がますます重要になる

このように、「合理的配慮義務」は訴訟の争点になりえますが、「この人にとって、合理的配慮とは何か」を判断するには医学的知識が必要になってきます。どのような配慮が必要か、企業はまずは「主治医」に尋ねることになりますが、主治医の意見を実際の現場での具体的配慮に落とし込んでいくには、「産業医」の意見・役割が重要になってきます。産業医面談や産業医からの意見聴取を経ずに、会社が独断で配慮の内容や本人の病状を決定するのはリスキーです。
(上記の事件においても、会社は産業医に複数回面談を行わせています。産業医が労働者に「日本の総理大臣は誰か」「会社の代表取締役社長は誰か」の質問をしたが答えられず、その次の面談時にも同様の質問をするも調べることなくわからないと答えたことについて、裁判所が労働者の社会性の欠如を認定する上での証拠の一つとなっています。もっとも、産業医だからこそできた質問・評価という訳ではないですが…。)

 

また、その労働者の要望や主治医意見を、企業は受け入れることが可能なのか・受け入れるべきなのか判断するには労働法の知識も必要です。上記の事件において、主治医は「対人交渉が乏しい部署、パソコンに一日中向き合うような仕事において復職可能」と診断書を書いていますが、会社側は片山組事件の最高裁判決等に基づいて、復職可能性について丁寧に検討し証拠を重ねた上で復職を認めなかったため、結果的に勝訴できています。

 

このように、メンタル不調のケースは、安全配慮義務違反、合理的配慮義務違反と背中合わせであり、医学的知識と労働法的知識の両方がないと適切に対応することは不可能です。企業は産業医・弁護士等の意見を聞きながら、コンプライアンスを守り、うまくリスクマネジメントしていくことが求められます。

 

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