【コラム】派遣社員とメンタルヘルス・安全配慮義務 ~産業医の視点から~

2015-12-22

労働者派遣法改正と今後

今年の9月に改正労働者派遣法が施行されました。私は「派遣,有期労働契約」の分野の知識が弱いと自覚していたので,ある大手派遣会社主催の法改正対応セミナーに行って勉強してきました(「弁護士の先生の法改正解説講座」+「派遣会社の自社宣伝を兼ねた解説」)。

 その派遣会社の話によると,『個人単位でも3年の縛りがかかり,基本的に同じ部署では3年以上働けない。但し,派遣社員と派遣元の関係が無期雇用契約ならそのような縛りはない』ため,ある程度経験や技能の蓄積が必要な業務に同じ派遣社員を長期的に使いたい企業は,派遣元と無期契約をしている派遣社員を求める傾向になるだろうとのことでした。その結果,派遣の業界は,派遣社員と無期契約をできる体力のある派遣会社が生き残っていくだろうとのことでした(宣伝も兼ねて多少自社に有利なように解説しているとは思いますが)。

 派遣社員について,どのような法規制をするのが良いのかは,労働法学者でも政治家でもない私には正直わかりません。ただ,労働者派遣という形態が,今後も当面は社会の中で存在し続けることは確実であり,また,産業界のスムーズな労働力移動(人が余っている業界から,急成長で人が足りない業界へ)のためには,政府としても,派遣社員と派遣元とを無期雇用にすることで雇用を安定させスキルアップの機会を確保しつつ,派遣社員を活用するという方策も考えられると思われます。

 そこで今回は,私が産業医業務を行ってきた中で感じた,派遣労働者への健康管理・安全配慮義務履行の難しさについて書いてみたいと思います。

派遣社員の健康管理の問題点

 派遣先,派遣元の責任所在があいまいになりがち

派遣社員の健康管理については,労働者派遣法や労働基準法等にて派遣元,派遣先に責任が割り振られています。例えば,一般健康診断や過重労働面談を行うのは派遣元の義務ですが,特殊健診等は派遣先の義務となります。

また,派遣先と派遣元が共同で行うべき事項もあり,判例上,安全配慮義務については双方が負うとされることが多いです。

『双方が負う』というのが,双方ともにしっかりやってくれれば良いのですが,場合によっては派遣先から見ると「ウチの従業員じゃないし」となり,派遣元から見ると「向こうで働いているからウチの責任じゃない」となってしまうこともあります。

長時間労働やメンタルヘルスの問題が社会的に注目される昨今,派遣先と派遣元がより緊密に連携して派遣労働者の健康管理を行う必要があると思われます。

 派遣社員が相談窓口に相談しにくい

派遣先で長時間労働をさせられメンタル不調になりかかっているものの,有期契約という不安定な立場等の理由から,派遣労働者が派遣元に相談できないケースもあるようです。派遣先は,派遣元からするとお客様な訳で,その間に立つ派遣労働者は双方に気を使わなければならない立場になることもあります。

派遣元,派遣先は,そのような労働者の立場も汲んで,相談しやすい体制を作らなければなりません。そのような体制を作らず,万一労働者がメンタル不調から自殺してしまった場合,派遣元・派遣先が連帯して安全配慮義務違反となってしまうからです。

派遣社員の業務や責任が過重な場合がある

派遣社員が優秀で技能も高い場合は,普通は派遣社員が行わないような高度の仕事を任され,また,派遣先の正社員を何人も部下として持つケースもあります。そのような場合でも,あくまで派遣社員は外部の人間であるため,派遣先の責任者・上司とのコミュニケーションが取りづらく,一人で責任を負って孤立してしまうケースもあるようです。派遣元企業が派遣先企業としっかり交渉し,業務範囲・責任が無制限に拡大しないようにする等の対応が必要ではないかと個人的には思います。

 

派遣業界で求められる産業医のスキル

このように派遣労働者は,派遣元と派遣先との二重の関係を持つが故に,健康管理が難しくなっています。それに携わる産業医も,通常の雇用関係とは違ったスキルが求められるように思います。

①労働者派遣法等の知識

法律や判例を知らず「派遣元には責任はない」等のトンチンカンなことを言ってはいけませんので,派遣関連の法律・判例の知識は産業医活動をする上で必須です。

②派遣労働者の労働環境を想像する力

派遣元企業の産業医が,そこの労働者を面談するにしても,各労働者が働いている環境は全くバラバラなわけです。Aさんはα社で,Bさんはβ社で働いているといった感じですが,産業医はα社にもβ社にも行ったことはありません。そこで,産業医に求められる能力としては,面談を通じてその人の働く環境を素早く把握し想像することが必要になってきます。これをするには,過去の多職種での産業医経験や,書籍・報道等を通じて得る各業界の知識が必要になると思います。

③派遣元の人事労務担当者との調整力

ある労働者の方に対し何らかの就業上の配慮が必要と産業医が考えたとしても,産業医が派遣先に出向いて行って,派遣先の上司等に会って直接意見を言うようなことはありえません。派遣先に伝えるのはあくまで,派遣元企業の担当者の仕事になります。

よって産業医としては,産業医意見がしっかり相手(派遣先企業)にまで正確に齟齬なく伝わるよう,産業医と派遣元担当者との打ち合わせ・コミュニケーションにはかなり気を使います。

 

弊社は,派遣先・派遣元企業の両方で豊富な産業医経験を有しております。産業医をお探しの場合は,是非一度弊社までお声かけ下さい。

 

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