メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ

2016-05-16

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

うつ病等のメンタル不調者の職場復帰・復職基準はどうあるべきか

➁メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ(本記事)

メンタル不調者への復帰後の対応について

メンタル不調者対応における就業規則の重要性

復職基準に達しているか判断するために

精神疾患に関しては、他の一般的な身体疾患に比べて、客観的に病状を把握できる医学的な指標がほとんどありません

もちろん、精神状態の評価のための心理テスト等は多数ありますが、『本人の自己評価・自己申告・自己の意思に基づく言動』の部分が必ず含まれ、100%客観的な指標はほとんどありません。

例えば、胃癌であれば、胃の細胞を採取してきて顕微鏡で見れば胃癌かどうか判断できます。
癌細胞が見られない場合、本人がどれだけ「この胃の調子の悪さは、胃癌に違いないんだ」と言ったところで、診断には影響しません。

一方で、精神疾患例えば不眠症と診断するには、「寝付くまで時間がかかる」「熟睡感が無い」等の本人の話に基づいて診断することになります。(正確に言えば、脳波を測定する等すれば客観的に評価できるとも言えますが、不眠の診断にそこまでする病院はありませんし、また熟睡感等は本人の弁によらざるを得ません。)

判断の精度を上げる工夫

つまり、メンタル不調の場合は客観的指標がないため、復職基準を満たしているかどうかの判断が難しいのです。

その判断の精度を上げるために、「本人からしっかり話を聞く」という基本以外に、企業は以下のような様々な工夫をしています。

・主治医の診断書(=主治医の意見)をとる
・産業医の面談を受けさせ、意見を聞く
・復帰前には日常生活記録表などを書かせる
・リワークに通って、評価を受ける
など

企業様が、弊社をご利用頂く理由の一つとしては、「産業医+精神科医」の専門性を活かしてここの精度を上げてもらいたいというのもあろうかと思います。

工夫の限界

しかし残念ながら、これらの工夫をいくらしたところで、100%客観的で確実な評価というのは困難です。

例えば、厚生労働省の職場復帰支援の手引きに書かれている復帰基準例の一つに、

「適切な睡眠覚醒リズムが整っている」

というのがあります。

仮に、まだまだ睡眠覚醒リズムが整っておらず、夜中に何度も目が覚める状態のメンタル不調者の方がいたとします。

貯金が底をついた等、どうしても職場復帰しなければならない事情がある場合、不調を隠して、会社や産業医には「よく眠れ、途中で起きることもありません」と話す方も、なかにはおられるかも知れません。

そのような虚偽の報告をされた場合、それが虚偽であると会社や産業医が証明することはほぼ不可能です。嘘であると証明するには、それこそ毎日脳波を測定するしかないと思いますが、全く現実的ではありません。

事実ではないと証明できない以上は、「本人の自己申告が事実である=本人はよく眠れている」という前提のもと、復職できるかを判断していくしかないのです。

 

また、休んでいる期間においては、症状が回復し基準を満たしたものの、復帰後に症状が悪化してしまうケースも多々あります。

私が経験したケースでは、抑うつ症状が出ていた従業員の方が、「休んだ翌日から症状が全くゼロになった」と仰ったケースもありました。

一方、産業精神医学の分野で全国的に著名な精神科開業医の先生が主治医となっている従業員が、その主治医から「症状が回復したので復職可能」との診断書が発行され、産業医面談でも基準を満たしていると本人が自信をもって仰り復職したものの、復職後1日勤務しただけで症状が悪化し、再度欠勤状態となった方もいらっしゃいました。

このように、基準を満たすことは最低限必要であると言えますが、基準を満たしたところで、復帰後も良い状態を継続できるとは全く限らないのです。

 

復帰後の重要性

このようなことから考えれば、「復職時に、基準を満たしてもらう」ということ以外に、メンタル不調者の復職過程において重要なことがもう一つ浮かんできます。

それは、「回復しないまま職場復帰してしまった方や、復帰してすぐに病状が悪化した方がいた場合に、復帰後においてどう対応するか」という視点です。

「メンタル不調者への復帰後の対応について」の記事へ続く】 

(なお念のため申し添えますが、メンタル不調者の方が、虚偽の報告をすることを非難しているのではありません。病気が治っていなくても早く仕事に復帰したい気持ちも分かりますし、また金銭面で生活が懸かっている場合は、虚偽の報告をしてでも復帰したいと考えても、責められるべきものだとは個人的には思いません。もちろん、ご自身の病状悪化防止の観点等からも、正直に伝えて頂きたいとは思いますが…。)

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2019 アセッサ産業医パートナーズ株式会社 All Rights Reserved.