【コラム】ストレスチェックの面接指導意見書と労働契約①~矛盾と問題点~

2015-11-24

本日,厚労省からストレスチェック実施プログラムが公開されましたが,それと同時に,「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」なるものも公表されました。

 

医師意見と労働契約

公開された医師意見書の様式・フォーマットの中の,「就業上の措置」の中に,「労働時間の短縮」という項目があり,その中には,『3.就業時間を制限 ○時○分~○時○分』という欄があります。これはストレスチェック実施マニュアルに載っている医師意見書にはなかった項目であり,今回新たに追加されています。
(逆に,私が以前不適切であると指摘した,「ストレスと業務の関連性」の項目は削除されているので,厚労省もさすがに産業医に業務起因性を判断させるのは不適切と考え直したのでしょうか。)

 

この3番が何を意味しているのかは,マニュアルを読んでもよく分りませんが,その上の欄に「2.時間外労働の禁止」という項目がありますので,時間外労働を削減・禁止しろとの意味ではなさそうです。
とすると,例えば「就業時間は9時~12時」といった,短時間業務についての医師意見をここには書くのだと思われます。

 

厚生労働省Q&Aとの矛盾

もしそうだとすると,厚労省が既に公表しているストレスチェック制度Q&Aと矛盾するのではないでしょうか?

ストレスチェック制度Q&A のQ14-1には,『就業上の措置として労働時間の短縮という言葉が出てきますが、これは、8時間の就業時間をさらに短縮するということではなく、就業規則に則った範囲での短縮だということでよいでしょうか。』との質問に対し,『ケースバイケースとは思われますが、趣旨としては時間外労働や休日労働の削減を意味するものです。』と厚労省は回答しています。

この回答は,あくまで就業上の配慮というものは,労使間の契約を前提にしてその範囲内で行われるべきものであり,法の趣旨としてはその契約の範囲を超えた措置を求めるものではないですよという,ごく常識的な当たり前の労働契約的観点から,厚労省が回答されたものだと私は認識していました。厚労省も,健康・医学的観点からのみではなく,労働契約的観点からも回答されるのだなぁと見ていました。

しかし,今回の厚労省のマニュアルの「3.就業時間を制限 ○時○分~○時○分」が,半日勤務等を意味しているのなら,一体どっちなんだと,混乱を招くのではないかと私は思います。

そのような私の批判に対し,厚労省はおそらく,「短時間勤務制度が,企業の就業規則・労働契約にある場合にのみ,医師に○をつけてもらい意見を述べてもらう趣旨です。」と言うでしょう。

しかし,会社の就業規則や個別の労働契約の中身までを考慮して,適切にこの意見書を利用できる医師が,世の中にどれくらいいるでしょうか(ちなみに私は,企業ごとの就業規則や労働契約の中身までを考慮して産業医活動をしています)。そもそも,労働契約・就業規則に短時間勤務の定めがない場合,企業は短時間勤務を受け入れる法的義務など全くないことを理解している医者はほとんどいないでしょう。

そのような状況下では,短時間勤務制度がない企業において,面接医師がこの意見書のフォーマットの欄を見て「あっ,短時間勤務もありなんだ」と勘違いし,「半日勤務にするように」との意見を出し,意見書を受け取った企業が混乱しかねないケースが生じるように思います。(ちなみに,半日勤務しかできないほど病状が悪い労働者がいるが労働契約上短時間勤務制度が無い場合には,休職とすべきであると私は思います。そのような症状の悪い方の労務提供を企業が受け入れた場合には,それに応じた通常より重い安全配慮義務・責任が企業には生じるからです。)

労働契約を理解していない医者が,医学的見地のみから一方的に意見を述べ企業を混乱させるケースが,今回のストレスチェックを機に頻発するのではないかと憂慮します。

もちろん「医者なんだから,医学的意見のみ述べたら良いんだ。それで企業が困っても知ったことじゃない。労働契約・就業規則なんて医者が知ったことか。」という意見もあるでしょう。確かに一理あります,それも一つのスタイルとして尊重されるべきと思います。しかし,そのようなことを続けていて,企業の信頼を得て,ひいては労働者の健康を守る活動を企業内で行うことができるでしょうか?そのような一方的な意見を述べるだけでは,企業からは「はいはい,また現場を知らないお偉いお医者様が,一方的な意見を仰っておられるよ。」と冷ややかな目で見られてしまうのが関の山です。

もちろん厚労省としては,この意見書は「案」であり,企業の実状に合わせて修正して下さいよ,そしてそのような勘違いが無いよう企業と産業医が事前に十分に打合せして,企業から医師へ労働契約の内容等をしっかり説明した上で使って下さいよと言うでしょうが,十分に打合せできるくらいに産業医がまともに機能している事業場が多いとは言えないのは,厚労省が一番よく知っているはずです。また厚労省お墨付きのフォーマットにケチをつけて,実状に合わせて修正して使用できる企業・産業医がどれほど存在するでしょうか?

だからこそ,今回発表されたマニュアルのように,全国レベルで今後何年にも渡って医師の多くが使うことになるであろうものには,労働契約的な視点も含めた配慮も入れて頂きたかったというのが,私の率直な意見です。
Q&Aでは,労働契約に配慮した回答をされているのですから。

 

厚生労働省でさえこれならば,一般の精神科医には望むべくもない

厚労省でさえ,このような混乱を招きかねない意見書のフォーマットを作成されるのですから,市井の精神科医が企業に対し,「半日勤務が必要」「ストレスのない仕事だけやらせるように」「本人のやりたい仕事に異動させるように」等の企業から見ると労働契約無視の無茶な診断書を提出してくる場合があるのは,ある意味当然なのかもしれません(全てのケースでそうだとは言いません。時々あるという意味です)。

今回のストレスチェックをきっかけに,「少しでもストレスのある仕事=悪」となり,「ストレスゼロの楽しい仕事,楽チンで頑張らなくても良い仕事,労使間の契約を無視した過度の配慮でもバンバン行ってくれる職場を目指しましょう」という方向に進まないことを祈るばかりです。
その②へ続きます。

 

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