メンタル不調者対応における就業規則の重要性

2016-06-10

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

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メンタル不調者への復帰後の対応について

④メンタル不調者対応における就業規則の重要性 (本記事)

はじめに(前提)

この記事の内容は前回の記事の続きですので、前提として、

『職場復帰したメンタル不調者に事例性が見られる場合において、企業として「病状が悪いまま勤務すると、さらに病気が悪化しかねず本人のためにも良くない」とか、「事例性があるため周囲(顧客や同僚等)に迷惑がかかっており、甘受できない」という立場をとる場合』、
つまりは、
『再度休んでもらい、しっかり病気を回復させて、しっかり働けるようになってから職場復帰してもらいたいと考える場合』の就業規則の重要性について書いています。

ですので、全ての企業・ケースにおいてこの記事にあるような対応をとるべきと主張するものではありません。なぜなら、前回の記事にも記した通り、企業として、遅刻・欠勤等が続く不完全な状態の労務提供でも受領し続ける選択肢をとっても構わないからです。

そもそも就業規則とは

日常的にはあまり意識しないかも知れませんが、働くということは『契約』です。その契約に従って、「会社が賃金を毎月払ってくれる」から労働者は働くのであり、「所定労働日に、所定時間働いてくれる」から企業は労働者を雇うのです。

その契約の内容については、労働基準法15条で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と定められています。

しかし、労働者の数が増えて何百人にもなった場合、個々の労働者と労働契約の内容を細部まで調整して個々に管理するのは大変です。
例えば、高度成長期に企業業績がアップし、またインフレも伴って、労働者の賃金額を頻繁に上げる必要があった場合、何百人との契約をその都度個別に巻き直すのは非常に煩雑です。
そのような場合、従業員全員に適用される賃金規程のようなものを定めて、集団的かつ統一的に管理する必要性が生じます。 その必要性に応じるものが就業規則なのです。

労働契約法7条では「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」とされていますので、合理的な内容の就業規則は、労使ともに労働契約として遵守する義務があるということになります。

また、就業規則においてもう一つの重要な点は、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては就業規則作成義務がありますが(労基法89条)、就業規則の中身の決定については、労働者の意見を聴取する必要はあるものの、同意を取る必要まではなく、内容が合理的であるのが大前提ですが使用者側が一方的に決めることができるという点です(実際には、労働組合との協議など、色々あるでしょうが…)。

ですので、就業規則が後述のように整備されておらず、メンタル不調者へルールに基づいたしっかりした対応ができないとしても、それはある意味、ルールを定めることができるのに定めずに放置してきた企業の自己責任とも言えます。

たまに、「何度も休職を繰り返し、何年もほとんど働いていないメンタル不調者がいる。困ったものだ。」と仰る上司や人事担当者の方がいらっしゃいます。

しかし、そのように何度も休職を繰り返すことが可能なルール・就業規則は、国や労働者から企業が押し付けられたわけではなく、企業自身が自らの意思で定めたルールなのですから、そのルールに従って休んでいるメンタル不調者に文句を言うのは少し筋違いのように個人的には思います(文句を言いたくなる気持ちも理解できますが…)。

メンタル不調者対応と就業規則整備

事例性の生じている復帰後のメンタル不調者を再度休職させることは、本人の病状悪化防止や、周囲への負担増回避のために、場合によっては必要なことです。

しかし、メンタル不調者から見ると、「再度休むと、お金に困る」、「再度休むと、周囲からの信頼・評価を損なう」、「再度休むと、休職期間満了で退職に繋がるリスクがある」など、色々なデメリット・不利益が生じえます。

つまりそのような場合には、企業の考えと、メンタル不調者の考えが一致せず、対立する可能性があるということです。労使トラブルに繋がるリスクも存在します。

職場復帰や休職に限らず、世の中の全てのことについて言えることですが、トラブルを避けるために一番重要なことは、『事前に、両者が合意した(又は合意まではいかなくとも、法的に効力のある)ルールを作っておく』ということです。

労働契約における休職について、『事前に、両者が合意した(就業規則には労働者の合意はいりませんので、正確には”法的に効力のある”)ルール』というものがすなわち『就業規則』にあたります。就業規則を事前にしっかり整備しておくことが、トラブルを回避しつつメンタル不調者に確実に適法に対応してくためには非常に重要になるのです。

また一方で、就業規則に沿って対応してもらえることは、労働者にとってもメリットで安心できることでもあります。
なぜなら、ルールが無ければ、その時の上司や経営者の気分や独断に基づき、解雇という可能性もありえますが、就業規則に定めがあれば、少なくともその合理的な就業規則のルールに沿って対応してもらえますし、万一不当に解雇された場合には、就業規則の内容を理由にしてその解雇の不当性を主張して行くこともできるからです。

【つづく】

 

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