【産業医が予想!】職場巡視頻度が2か月に1回で良くなったら

2016-11-15

検討委員会の報告書案

昨年の秋から今年の秋にかけて、産業医の在り方に関する検討委員会というものが厚生労働省で開催されました。

近年、ストレスチェックが法制化され、長時間労働による健康障害が社会問題化するなど、労働安全衛生法が制定された当時とは社会状況が大きく変化しており、産業医の在り方も時代に合わせて変化する必要があるのではないかとの観点から、様々な事項が検討されています。

つまり、製造業等が産業の中心であった時代には、機械による怪我、有害物質による健康障害等への対応が産業医の主な業務であったのに対し、近年では第三次産業の割合が増加し、オフィスワーカーに対してはそのような怪我や有害業務よりも、長時間労働による心身への負担やメンタルヘルスの問題への対応が多くの割合を占めるようになっています。

 

この検討会の報告書案が、厚生労働省のホームページに、数日前にアップされました。(あくまで「案」ですので、今後修正され、最終報告書ができるのだと思います。)

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追記)
12月26日に最終報告書が厚生労働省から公表されましたが、報告書案からの大きな変更はありませんでした。今後、省令を改正し、2017年6月からの施行を目指すとのことです。厚労省の省令改正案はこちらです。
以下の本記事は、新たに発表された省令改正案に基づいたものではなく、報告書の段階の内容に基づいたものになりますのでご注意ください。
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追記)
2017年3月13日、労働政策審議会の答申で、省令改正が妥当との結論が出ました。
これにより、2017年6月からの改正がほぼ確実になりました。(→その後正式に、官報にて公布されました)
最終的・具体的な改正案はこちらの厚労省HPをご覧下さい。

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ごく簡単にまとめると、以下のような項目が報告書には書かれています。 

・事業場によって業務内容は変わるので、それに応じた労働衛生管理を行いましょう。

・産業医活動に必要な情報を、企業は産業医に提供しましょう。

・産業医だけではなく、保健師等も含めたチームによる支援を強化しましょう。

・産業医のいない50名未満の小規模事業場では、健診事後措置が法的義務であるのにあまり行われていない等の実態があるので、是正・強化しましょう。

など…

 

どれも、現在の産業保健の分野での課題を改善するために必要な項目であると、私自身感じます。しかし、ただ1点、もしかすると職場の労働衛生の後退につながるのではないかと感じたのは、以下の点です。 

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産業医の職場巡視の頻度を、事業者の同意を条件として、毎月1回以上から2 月以内に1 回以上とすることが適当である。

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これについて、以下詳しく見てみましょう。

 

オフィスの職場巡視は意味があるの?

そもそも、なぜこのように職場巡視の頻度を下げても良いのではないかという議論が出てきたかというと、つまるところ、有害業務のほとんどないオフィスを毎月巡視して意味があるのか、その時間がもったいないのではないか、浮いた時間で長時間労働者への面談等を手厚くできるのではないか、労働者の作業環境を把握するには巡視以外の方法もあるのではないか等の理由からです。 

上記の通り、製造業等が中心の時代には、工場や現場の作業環境は日々刻々と変わる(労働者自身の行動が危険に繋がることもある)ため、産業医が毎月巡視して、労働衛生上問題のある点を指摘し、また同時に、労働者の作業環境を産業医が知ることは意味のある事だと言えます(現在でも、製造業等においては産業医のみならず、様々な人が、連日頻繁にパトロールを行い怪我等を防いでいます)。

一方、オフィスにおいては、化学物質等の有害業務が存在し、作業環境が刻々と変わるようなことは少なく、怪我や重篤な健康障害や死亡につながることはまれだと言えます(あくまで製造業等と比較すればですが…)。 

私自身、産業医として多くのオフィスを巡視していますが、初回の巡視時には指摘事項がたくさんあったり、季節の変わり目等にはチェック事項が多かったり(この季節なら、インフルエンザ対策ができているか等)しますが、毎月巡視していると新たな指摘事項がなくなってきて、健診チェックや従業員への面談に時間をとるために、巡視は10分以内で切り上げることもあります。
ただ、月1回の巡視は法的義務ですので、時間がないからといって省略することはありません。たとえ数分であっても必ず行うようにしています。

 

このような事情から、巡視頻度を減らしても良いのではないかとの議論が出てきたのです。
 

2月に1回に職場巡視を減らすための条件

職場巡視には、労働者の作業環境・労働環境を知るという意味合いもありますので、2月に1回に減らした分をカバーするため、会社は産業医に以下の情報を提供するように、報告書は提案しています。

・長時間労働者面接の対象者や労働時間

・週1回以上の衛生管理者の巡視記録

・その他、必要な事項 

なお、産業医の判断のみでは2月に1回にはできず、事業者の同意が必要になりますが、その同意は衛生委員会で調査審議する必要があるとしています。

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2017年3月13日追記)
最終的な改正案では、衛生委員会での調査審議は法令上は求められておらず、「所定の情報の産業医への提供」+「事業者の同意」のみが必要とされています。
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 追記)
2017年3月31日付通達が発表され、上記の事業者の同意は、衛生委員会で調査審議したうえで行うこととされました。法令ではなく、通達レベルでの規定となりました。
また、この通達には、衛生管理者の巡視記録に含まれるべき事項等の記載もあり、要チェックです。

 

2月に1回にするとどうなるのか予想

検討会においては、巡視頻度を少なくしても大丈夫なのかという声も出ていました。以下、公開されている議事録から、ピックアップしてみます。

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(第五回議事録より)

竹田委員:

頻度を緩めてもいいという言葉自体が誤解を招くと思いますので、そこを私は言っています。事業場の必要に応じた、あるいはリスクに応じた頻度で巡視をするのであればわかるのですけれども、あくまでそこで緩めるという言葉を使われると、やらなくていいという方向の話にしか聞き取れないので、それを改めて言わせていただきます。

・職場巡視の議論とともに、事業場に訪問する頻度の話が、職場巡視のほうで頻度を減らし、もしテレビ電話で衛生委員会に出られたら、事業場に行かない産業医が出てきてしまうのではないかという危惧があるので、(中略)、事業場との距離あるいは事業場との訪問に関しての何らかのルール化も必要かなと感じました。

(赤字部分については弊社が強調)

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この竹田先生の御発言を見たとき、まさにその通りだと思いました。

事業場の訪問に関しての何らかのルール化も必要」であり、さもなければ過去のこちらの記事にも書いていますが、2月に1度しか事業場を訪問しない産業医が出てくることが容易に想像できます。

現時点でも、毎月訪問しない産業医はいるものの、それは違法な事であり労基署による是正勧告の対象とすることができますが、今後もし「産業医の職場巡視が2月に1回でOK」かつ「産業医の事業場訪問のルールも特になし」となると、2月に1度だけ訪問していれば適法となるのです。(月1回の衛生委員会に産業医が出席するよう徹底を求める通達はありますが、通達であり法令ではありません。)

 

報告書案に書かれなかった事項・書かれた事項

今回の報告書には、「産業医の事業場訪問のルール」は特に書かれませんでした。おそらく、検討会の委員の方々は、巡視頻度を下げても、職場訪問自体は月1回というのが暗黙の了解で存在するのだと思いますが、日常的に多くの企業とやり取りしている私の感覚からすれば、しっかり労働衛生管理をしていこうと思っている企業は月1回を続けるでしょうが、コスト面から2月に1回の産業医訪問に変えたいと考える企業が多数生じると思います。(現状でも、コスト削減のため名義貸しの産業医を雇い、それに応じている医師や医師会も存在します。)

 

「衛生委員会があるからどちらにせよ月1回は訪問するのではないか」と言われるかも知れません。しかし、法令上、産業医は衛生委員会の構成員であるものの、産業医の出席がなければ衛生委員会が開催できないというわけではありません。なぜなら、衛生委員会が成立するための要件は安衛法では定められておらず、衛生委員会自身でその成立のための要件を決めることができるとされているからです(昭63・9・16基発第601号の1 :【産業医の出席を衛生委員会又は安全衛生委員会の開催要件とするか否かは、労働安全衛生規則第23条第2項の「委員会の運営について必要な事項」に該当するものであり、したがって各委員会が定める事項であること。】)

 

実際、昨年公表された日本医師会による産業医アンケートでも、年12回(毎月)以上衛生委員会に参加していると答えた産業医は、2017人中623人で約30%しか存在しません

 

また、巡視頻度を減らすには、産業医の判断のみでは不可能であり、衛生委員会で検討し事業者が同意することを要するとして一定の歯止めをかけているようですが、会社・産業医が2月に1回としたいと言っているのに、それに対して労働者側の委員が抗うことはほぼ不可能(もちろん組合が強い企業等ではできるでしょうか)ですので、実質、会社と産業医の判断のみで決まるといっても過言ではないでしょう。そもそも、衛生委員会をしっかり開催して労使が対等に活発に議論している企業は、どれほどあるのでしょうか?

報告書では、国等が指導するとありますが、電通事件に見られるように明確な36協定違反があっても労基署は十分取り締まれていないのに、衛生委員会までしっかりチェックして指導できるはずがありません。この歯止めの実効性は、個人的にはかなり疑問です。

つまり、以上をまとめると、
国は、産業医が長時間労働者やストレスチェック後の高ストレス者との面談にさく時間を増加させることを意図して巡視頻度を2か月に1回に縮小しても良いとしたものの、職場訪問頻度に関する法的ルールがないため、「2か月に1回、職場に来る産業医」でも適法になり、コスト面からそれを求める企業が増え、逆に労働者が産業医面談を受ける機会が減少することになる危惧があるのではないかと感じます。

 

2月に1回の産業医活動のニーズが確実に高まる

現時点では法令に定められているので月1回の産業医業務を依頼しているが、今後、2月に1回でも適法となれば、コスト削減のためにも『2月に1回の訪問でもOKと言ってくれる産業医』『2月に1回の訪問で、その分安い産業医』に切り替えようとする企業は、数多く出てくるものと思われます。

私の事務所にも、「毎月の訪問は結構ですので、安くしてもらえませんか」との問い合わせがしばしば来ますし、それに対して、毎月の訪問を産業医にさせるのが企業の義務なのですよと私が説明すると、「では、こんなことをお願いするのも何ですが、名義貸しをしてくれる産業医を紹介してもらえませんか?」を言われたこともあります。(名義貸しに応じてくれる産業医派遣会社も知っていますが、さすがにご紹介は差し控えさせて頂いています。)

それくらい、中小企業にとってコスト面は切実な問題なのです。特に、利益に直結しない労働衛生に関するコストはなおさらです。

 

私自身、従業員の方々への健康支援をしっかり行うには月1回の訪問を続けたいと思っていますが、世の中の企業ニーズ・趨勢が2月に1回訪問する産業医を求めるものになった場合、その趨勢に抗って月1回訪問のスタイルを続けることができるのか、今から不安を感じます。
「2か月に1回の訪問で良いから、その分安くしてくれ」、「毎月職場訪問するなら、御社との契約は打ち切り、2か月に1回でもOKと言ってくれる産業医に変更する」と言われてしまわないか心配です。

省令が改正されたとしても、毎月来てほしいと企業から言われる産業医になれるよう努力していかなければと思いますが、その一方で、2か月に1回訪問でその分リーズナブルな契約形態を検討する必要に迫られる時が来るかもしれないと思う今日この頃です。
 
 
 
最後にご注意:
上述のように、本改正の趣旨は、巡視よりも面談等に割り振る時間を多くし、より産業医活動を実のあるものにするためのものであって、厚労省の検討委員会の偉い先生方も月1回の産業医訪問が大前提とお考えのようです。
その趣旨に反するような、2か月に1回の訪問に変更して果たして本当に適法なのか、労基署等から注意を受けないのかは、確実なことは言えません。あくまで本記事は私見に過ぎません。
もう少し時間が経って、正式に省令が公布されたら、労基署等へ問い合わせてみようとも考えています。

4月12日追記)

省令改正が正式に官報で公布されましたので、当HPの人気記事である「衛生委員会の最低人数」の際にもお世話になった労働基準監督署へ、問い合わせをしました。

すると、担当者の方がわざわざ調べて下さり折り返しのご連絡を頂き、以下の趣旨の回答を頂きました。

・現在は、「産業医が月1回の職場訪問をしていない=必然的に月1回の職場巡視もやっていない」となるので法令違反であると言えるが、省令改正後は、2か月に1回職場を訪問をして、その際に職場巡視をすれば、それは違法であるとは言えない

・ただし、今回の省令改正の趣旨は、職場巡視を減らした時間を、従業員との面談等に回し、より充実した産業医活動とする点にある。よって、産業医の職場訪問を2か月に1回に減らし、労働者の面談機会が減ったり産業医活動が後退することがあれば趣旨に反するので、産業医と事業者でよく話し合って決めて頂きたい。そのようなことにならないよう、産業医から企業へ説明し理解を促して頂きたい。
   
⇒結局、産業医が2か月に1回だけ職場を訪問し活動することは、「違法ではないものの、法改正の趣旨から言って、産業医活動が後退するようなことになれば不適切である。」といったところでしょうか。
   
ただ予想通り違法ではないことは分かりましたので、今後、産業医業界としてどうなっていくのか、注目されるところです。

 

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