「疾病性と事例性」について、国会議員の事例をきっかけに考える

2016-02-17

甘利元大臣が睡眠障害で自宅療養が必要になったため、国会を欠席しているという報道がされています。一日も早いご回復をお祈り申し上げます。

 これに対し、民主党の中川氏が「いよいよ、攻勢をかけていく時だと思う。総理の睡眠障害を勝ち取りましょう」と発言し問題となっています。睡眠障害で悩んでいる方々は社会に多くおられ、そのような発言は不適切なのではないかとの批判が出ています。

 中川氏の本心は知る由もありませんが、もしかすると、甘利氏の自宅療養は「ほとぼりが冷めるまでの雲隠れ」ではないかとの疑念があり、安倍総理に対しても、雲隠れしたくなる程に厳しく問題点を追及していこうとの趣旨で発言されたのかも知れません。そうだとしても、睡眠障害で苦しんでいる方々に対し、配慮に欠ける発言であることは事実だと思います。

 「甘利氏は本当に病気なの?雲隠れじゃないの?」という思いが根底にあるがゆえに、このような失言に繋がったのではないでしょうか?仮に、甘利氏がストレスのため胃潰瘍になり国会での活動中にTVカメラの前で吐血して救急車で運ばれた場合には、中川氏も「安倍総理にも攻勢をかけて、国会での吐血を勝ち取りましょう」とはさすがに言わないと思います。

 

事例性と疾病性

上記の政治の話は、100%私の勝手な想像ですので、ここからが本題です。

一般の職場においても、医師の診断書が出た以上は、本当に病気かどうかを疑うのは適切でなく、「病気である。そして、好きで病気になる人はいない。本人も苦しんでいる。」という考えをベースにして対応すべきです。特にメンタル不調の場合で、人事担当者や上司が「本当に病気なの?病気に逃げているんじゃないの?」と疑っているケースも時々見かけますが、そのような疑念は自分の内心のみに留めるべきであり、本人に対し「病気じゃなくて、甘えだ」などと言ってしまってはトラブルに繋がりかねません。

診断書が出た以上は、あくまで病気(疾病)として対応しましょう。

 

事例性を中心に考える

そうは言っても、会社は何も言えない訳ではなく、会社がメンタル不調者との間で主に問題とすべきなのは「事例性」です。事例性とは、「遅刻している」「欠勤が多い」「業務の効率が著しく落ちている」「周囲との協調性がない」等の客観的事実のことを言います。

職場にメンタル不調者(又はメンタル不調が疑われる人)がいる場合、「病気かどうか。病状は良いか悪いか」という疾病性ではなく、事例性に注目するとスムーズに対応できます。

 なぜ、疾病性ではうまく対応できないかというと、医者ではない医療の素人である上司が、部下に対し「病気だろうから産業医のところに行ってこい!」とか「病状が悪いから休め!」と言うと、「何で医療の素人の上司に、病気だと決めつけられるんだ」、「病状が悪いとか、一方的に決めつけられたくないわ」との反発が部下に生じ、受診拒否やトラブルになりかねないからです。

 事例性に注目して対応すれば、まず上司は部下に対し、「最近遅刻が多いけど、どうしたの?」「ミスが増えているようだけど大丈夫?」と聞くことになります。そこで本人が「最近、なかなか寝付けなくて、朝起きられず遅刻してしまいます」、「頭がボーっとして集中できないんです」と言えば、そこで初めて「もしかしたら病気かもしれないから、産業医にみてもらってはどうか」等と、医療に繋げて医者に疾病性を判断してもらえば良いのです。

 

本人が受診拒否した場合

本人が、病気の可能性を強く否定して医者に会うことを拒否した場合は、しばらく様子を見た上で、それでも遅刻・欠勤(事例性)が続いた場合は、「遅刻・欠勤が多くて職場も困っている。遅刻・欠勤が病気によるものではないと君は言うが、万一病気によるのもではあってはいけないので、念のために医療のプロである産業医の面談を受けてくれ」と勧めて、医療に繋げます。それでも正当な理由なく拒否する場合には、病識のない精神疾患も存在しますので産業医等と相談しながら慎重な対応が必要にはなりますが、「病気ではない勤怠不良」として指導・懲戒の対象にせざるを得ない場合もあるでしょう。

 

このように、疾病性と事例性を分けて考える視点は、職場で生じた健康問題に対応する際には非常に重要です。まず、事例性を入り口にして対応し、疾病性については人事・上司が独断で判断せず医療職に任せることをお勧めします。

 

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