【メンタル不調者の復職】半日勤務・短時間勤務・軽作業が必要という主治医診断書について

2017-03-12

私は精神科産業医 兼 特定社労士という立場でお仕事を頂いている関係上、労働判例を読む機会を多く持つようにしています(単に読むのが好きだというのもあるのですが)。

「労働判例」の雑誌もよく読みますが、号によっては、掲載されている判例の多くが労働衛生、特にメンタルヘルスに関するものであったりします。(直近の3月1日号を見ても、大見出しの3つの判例は➀無断欠勤で懲戒免職 ➁警備員の脳出血 ➂長時間労働による精神疾患発症・自殺というラインナップで、3つのうち2つが健康関連です)

 

印象的な裁判例

そんな中、過去に読んだ判例の中で、タメになった判例の一つに、I商事事件(東京地裁 平 25.1.31判決)があります。

その事件の概要をごく簡単にまとめると以下の通りです。

・I商事の総合職のXさんが、双極性障害(躁うつ病)のため、休職するに至った。

・休職期間満了の約2か月前から、トライアル出社をするも、会社は最終的には病状回復が不十分であるとして復職を認めず、退職となる。

・退職は無効との訴えをXさんは起こすが、認められなかった。

 

弁護士の先生方の解説

この判例に対する、弁護士の先生等の解説・ポイントには、以下のようなことが挙げられています。

 

➀復職可能性を検討すべき職種は、あくまで総合職の中

休職者が復帰する際、元の職場に戻れない病状であるが、他の職場・職種なら可能かもしれない場合、会社はどこまで範囲を広げて復帰後の職場を探す義務があるのでしょうか?

 

例えば私が、病院と勤務医として労働契約を結んでいる場合において、何らかの理由(例えば医療ミスのトラウマ)で私が医業をできなくなったとして、受付窓口の事務員ならできると私が希望した時、病院は私を事務員として雇い続ける義務があるのかという問題です。
 

本判例において裁判所は、「復帰時に検討すべき職種は、あくまで総合職内で」という判断を示しました。総合職として労働契約を結んでいるのだから、あくまで総合職として想定される職種・職場内で検討すればよく、一般職まで広げて検討する必要はないということです。

そして、I商事の総合職はどんな仕事でも
「管理職および将来管理職となることを期待された幹部候補の正社員であり、非定型的な役務を提供し企業が享受する具体的な利益を考慮したうえであらゆる役務に臨機応変に対応することが要求される」
「社内外の関係者との連携・協力が必要であり、その業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされる」
ため、Xさんはそこまで回復していないと判断されてしまいました。

 

他の裁判例では、なるべく広い範囲で、本人ができる仕事を探してあげて雇用を継続しなさいよという判断が多いですので、さすが誰もが憧れるエリート集団である総合商社の総合職(高給な分、かなりハードワーク)は甘くないといったところでしょうか。
普通の会社であれば、裁判の結果も違っていたのかもしれません。

➁復帰が可能であることを証明するのは誰の責任か

復職可能性(休職事由の消滅)の立証責任が労働者側にあると明示した点も、本判決のポイントであるとされています。

ただ、実際には、企業側も労働者が働ける状態ではなかったことを立証しなければならないことを免れる訳ではなく、産業医の判断や、トライアル出社中の勤怠・成果等の記録も重要になってきます。

 

私なりの視点~時短勤務という主治医診断書など~

弁護士の先生が挙げて下さるポイントは上記のようなものですが、私はあえて少し違った角度から、私なりに「へぇ」となった点を挙げてみたいと思います。
それは、主治医の診断書内容に対する、裁判所の解釈です。

 

主治医の先生は、会社に対し以下の内容の書かれた診断書を提出しています。

『就業上の注意点:①再発防止のために,気分安定剤の規則的な服用が必要である。②トライアル出社の方法としては,午前中,午後2~ 3時,定時迄と,徐々に勤務時聞を延長していただくことが望ましい。』

そして、この記載が、Xさんが病状回復していたかどうか裁判所が判断する際に、Xさんにとって不利な証拠となっています。

具体的には、裁判所は、

『職場復帰する際の就業上の注意点として,定時勤務ではなく時短勤務から開始するのが相当であると指摘しているのであるから本件トライアル出社開始時点の原告の病状について,必ずしも治癒・寛解に至っていると診断していたものではなく精々本件トライアル出社ができる程度に病状が安定していると判断していたにすぎず,被告の総合職として,債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したと判断していたわけではないことは明らかである』と述べています。

 

さらにXさんにとって悪いことに、別の主治医M医師(当時の主治医からXさんの治療を引き継いだ先生)が、裁判所に対する意見書に、

『精神疾患の患者が自宅療養によって回復するのは7,8割程度であって,復帰の初めからほかの従業員と同じ業務をこなすことを原告に期待すべきでなく,時短勤務から始めるべきである』と書いてしまいました。
 
この意見書に対し裁判所は、

『M医師は,本件トライアル出社開始時において,原告(Xさん)がいまだ回復していなかったことを自認しているともいうべき』と厳しい判断をしているのです。

 

裁判所は、その他諸々の証拠等も含めて、Xさんは回復していなかったと判断したのであって、上記の主治医の診断書・意見書のみで判決が決まった訳ではありませんが、Xさんにとって不利に働いた可能性は否定できません

 

私も産業医として実務を行う中で、「半日勤務から開始する必要がある」等と書かれた診断書を見ることがありますが、果たして主治医の先生は、このように万一労使トラブルになった際に、自分の診断書が患者さんにとって不利な証拠となる可能性があることを想定されて書かれているのだろうかと感じてしまいます。

なんとなく、「半日勤務からの方が、負担が軽そうだから」とか、「患者さん本人が希望するから」等の理由で、とりあえず書いておこうというのは患者さんにとって不利益になる危険性がありうると言えるでしょう。また、そのような診断書を受け取った会社に「まだ十分回復していないんだな」という印象を与えることにも繋がりかねません(後述)。

 

もし、どうしても半日勤務からと書くのであれば、患者さんの不利益になるのを避けるため、

「半日勤務からの開始が望ましい。但しその趣旨としては、現時点でフルタイム勤務が可能な状態まで回復しているが、より確実に職場に復帰できるようソフトランディングの意味合いから勧めるものである。」

などと書くべきなのかもしれません。

 

これを企業側の視点から見ると…

逆に企業側からすると、「半日勤務・時短勤務が必要」との主治医診断書は、未だ回復不十分であるとして復職を認めない判断を企業がする場合、その判断が正当であることを証明するための証拠を、わざわざ主治医が書面にして送ってきてくれたことになります(皮肉っぽい言い方ですが…)。

また、もう一つ気を付けたい点は、上記の裁判所の判断からもわかるように、一般的には

「半日勤務・時短勤務からの開始が必要」=「まだ十分には病状は回復していない。」

との解釈になるのです。

よって、「半日勤務・時短勤務が必要」と書かれている人を、職場復帰させる判断をした場合、通常にも増した安全配慮義務が会社には課されることになります。

なぜなら、
『病状が悪いと認識しながら職場復帰OKと判断したのだから、会社として当然ながら極めて手厚いフォローをしてあげるのが筋でしょう』
となるからです。
具体的には、毎日上司が手厚く本人をフォローしたり、すぐに産業医に相談できるような体制が求められます。

よって、このような充分なフォロー体制が整っていないにも関わらず、「半日勤務・時短勤務が必要」と書かれた不調者を安易に復職させることは、会社にとって非常に危険なことであると認識する必要があると言えます。

 

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