【コラム】ストレスチェックの面接指導意見書と労働契約②

2015-11-26

先日のコラム「ストレスチェックの面接指導意見書と労働契約①」が一部からご好評を頂いたため,気を良くして,その2を書いてみます。

 

医師意見の各項目と労働契約への影響について考えてみる

①「1.時間外労働の制限」「2.時間外労働の禁止」

企業と労働者間で36協定が締結され就業規則に規定があれば,企業側に残業をさせる正当な理由がある場合は,労働者は残業を行う義務があります。

しかし,あくまで36協定は労働基準法の労働時間規制の例外的位置付けであり,産業医が「体調が悪いため,一時的に残業を制限・禁止して下さい」との意見を出した場合,それを無視し病気を悪化させると安全配慮義務違反となるため,実質的に企業はその意見に従わざるを得ないと思われます。また,一時的に残業が禁止される状態は,債務の本旨に従った労務提供ができていないとまでは言えないため,休職させることもできないと思われます。

但し,残業禁止・制限の期間が「長期間」に渡る場合には,労働者が債務の本旨に従った労務提供を行っているとは言えないため,休職等を考慮すべきです。

 

②「3.就業時間を制限」

これが何を意味しているのかは私にはよく分りませんが,仮に「9時~12時の半日勤務」等の短時間勤務を書く欄であると想定します。

 前回のコラムに記載した通り,短期間勤務制度が労働契約上定められていない場合は,産業医が「半日勤務が必要」と意見しても,企業はそれに従う義務はない訳です(義務がないのであって,もちろん企業の自由裁量として半日勤務を認めることも可能です)。

半日勤務を受け入れないとした場合,産業医が「フルタイム勤務は無理で,半日勤務が必要な病状(=半日しか働けないというのは,病状としてはかなり悪い)」と言っている訳ですから,休職制度があればそれを利用し,休職制度がない又はあったとしてもその労働者が以前に休職している等の理由で休職の残期間がない場合は,「労務に耐えられない」等の理由で解雇・退職の可能性もあります。

(→この記事を読まれている産業医の先生等にお伝えしたいこと:このように,企業の就業規則等の制度を知らず,軽い気持ちで「半日勤務」と意見を出すと,仮に労働者が解雇されて訴訟になった場合,労働者のためを思って作成した先生の意見書が,「半日勤務しかできない病状であると産業医も意見しているため,解雇は正当である」と裁判所が判断するための証拠にもなりうる(実際にそのような裁判例もあります)ので,注意して下さい(もちろん解雇が正当かどうかは先生の意見書のみで決まるわけではありませんが,労働者に不利な証拠として裁判所が扱う可能性があるということです)。そのような点からも,産業医学を行う上では,労働法の知識は必須であると私は思います。)

 

③「4.変形労働時間制または裁量労働制の対象からの除外」

この項目を見たとき,私は少し驚きました。というのも,ストレスチェックの実施マニュアルの意見書例には無かった項目であり,私自身,産業医活動をする上で,このような意見を書いたことはなかったからです。

しかし,来年の国会ではいわゆるホワイトカラーエグゼンプション等,裁量労働制の拡大のための審議が予定されていますので,それを見越してこの項目を入れてくるあたりは,さすが厚労省だと感心しました。法案を通すために,ストレスチェックの意見書にまで気を配っているのかと驚きました。

さて,変形労働時間制や裁量労働制は,36協定と同じく,労基法の労働時間規制の例外的扱いであり,種類にもよりますが労使委員会での決議が必要であったり,健康確保措置を定めることが労基法上必要になります。よって,健康確保措置の一環として,産業医が「変形労働時間制または裁量労働制の対象からの除外」の意見を述べることも,全くもって「あり」だと思います(むしろ必要)。

ただ私が懸念するのは,例えばブラックIT企業が「産業医が裁量労働時間から外せと言った→当社のSEはみな裁量労働制である→裁量労働制から外すとなるとSEの仕事ができない→SEとして雇用しているから,SEができない以上は解雇」とならないか心配します。もちろんこのような解雇は不当・無効ですが,産業医としては,「裁量労働から外せと意見をしたら企業はどう動くか」を予想して意見を述べないと,トラブルにつながる可能性がありうると思います。

 

厚生労働省のプロ基準の,この意見書で大丈夫なのか?

このように,少し考えただけでも,各意見によって,企業・労働者へ与える影響は異なり,法的意味合いも異なってきます。しかし,産業医活動のほとんどが,開業医の先生など産業医が非専門の先生に担われている現状を考えると,ここまで考えて意見を述べる先生はほとんどいないでしょう。

 

このマニュアル・意見書を作成した厚労省の作成班の先生方は,産業医学のプロフェッショナルですから,ここまで考えるのも当然・簡単なことだと思います。自分たちなら簡単に使いこなせるから,このような意見書のフォーマットを作成されたのかもしれません。

しかし,ほとんどの産業医は労働法関連の知識をそこまで合わせ持っていないと思われますので,そのような先生でも簡単に使いこなせ,かつ,企業・労働者との関係で誤解・トラブルにつながりにくいフォーマットを作って頂きたかったと個人的には思います。

 

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