産業医から見た「労働時間の適切な管理」とは
最近、労働時間に関する取り締まりが強くなり、弊社のクライアント先でも労基署の立ち入り検査を受けたところが数社出てきています。
先日、第3次安倍再改造内閣が発足し、働き方改革を推進する担当大臣が新設されました。今後、残業に関する規制・取り締まりは一層強まるものと思われます。
では、政府や世の中の流れとして残業を減らしていこうとなったとしても、そもそも適切な労働時間管理を企業がしていなければ、話が始まりません。例えば月に100時間残業しているのに、自己申告制であるため会社の記録上は20時間になっているなどのケースも散見されます。
まずは、正確に労働時間を管理することが、残業削減の第一歩ですし、労基署の臨検の際などにも、適切な労働時間管理ができているかが重視されます。(なお、労働時間を正確に把握すべきことは労働基準法などの条文に明記されているものではありませんが、労基法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、企業は労働時間を適正に把握する責務を有していることは明らかであるとされています。また、今度の9月の臨時国会では、インターバル制の導入とともに、使用者による労働時間把握義務の強化等が議論されると思われます。)
では適切な労働時間管理とは何なのか?
厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(以下、基準という)が出されていますので、それを少し見て見ましょう。
労働時間管理方法の原則
基準には、以下のように書かれています。
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
(ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ)タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
自己申告制は例外的な措置
そして、基準にはさらに以下のことも書かれています。
上記の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
つまり、自己申告制にできるのは、「自己申告でやらざるを得ない」という例外的な場合のみなのです。
私が思うに、「自己申告でやらざるを得ない」というケースは、テレワークなどで自己申告によらざるを得ないケースなど、かなり限られるのではないでしょうか。
普通に会社に来て働いている場合には、出入り口にICカードリーダーを置けば簡単に把握できるのですから、「自己申告でやらざるを得ない」とはならないでしょう。
それにも関わらず、未だ多くの企業で、自己申告による労働時間管理が行われていますが、それを今後も続けていくことは難しくなるように思います。
そして何より、産業医として労働者と多く接する機会のある立場から言うと、「実際の残業時間と、会社への報告時間が、違う。」というのは労働者が一番よく知っていることであり、それは、労働者の不満・不安やモチベーションの低下に繋がります。
労働人口が減少し、優秀な人材確保が難しくなりつつある時代において、残業を自己申告制で過小に報告させることは、企業の継続的な成長・存続に悪影響を与えるファクターになりかねないと言えるでしょう。