ストレスチェック義務化への対応ポイント 職場改善編

2015-11-30

ストレスチェック制度の義務化が明日に迫りましたが,本日はストレスチェック制度のポイントの2つ目として「職場改善」について書いてみます。

 ストレスチェックの最終目的を何に設定するか

ストレスチェックのメインの目的を「健康」に設定すると,どうしても企業の経営層の方はあまり興味を持たれません。そうではなく,ストレスチェックをきっかけにして「皆で職場の要改善事項についてディスカッション→職場環境改善→生産性向上→利益アップ」をメインの目的にすべきと私は考えます(もちろん従業員個々の健康・働きやすさも大切です)。

これはあくまで私個人の意見ですが,「健康・メンタル不調発生防止」を究極の目的にすると,「ストレスフリーの楽しい職場を作ること」が究極的には必要になります。なぜなら,少しでもストレスがあればメンタル不調のリスクが多少なりとも発生するのは否定しようのない事実ですから,メンタル不調者をゼロにするためには仕事のストレスもゼロにするしかないのです。しかし,そんなに楽しいストレスゼロの仕事があるでしょうか?仕事はしんどくてストレスがあるからこそ,その対価として給料が支払われるのではないでしょうか。そんなに楽しいストレスゼロの仕事があるなら,むしろディズニーランドのように入園料ならぬ入社料を払ってでも働いてみたいものだと私は思います。

 経営層の方々は,ストレスのある仕事をこなして出世してきた方々ですから「ストレスフリーの仕事,健康・病気の予防」を究極の目的にするとストレスチェックへの理解が得られにくいどころか,場合によっては「仕事はストレスがあって当たり前。甘えたことをぬかすな。」と誤解されかねません。それよりも,「生産性の向上,会社の発展」をストレスチェックの目的に加えれば理解も得られやすいと思われます。(「メンタル不調の生じにくい職場作り」の重要性を否定しているのではありません。)

 

「職場改善」と「メンタル不調者への個別対応」は全く別物

先日,ある大手システム会社で何年も前からストレスチェック&職場改善に取り組んでこられた人事の方のお話を聞きましたが,その方も当初(十数年前)は「産業医でも保健師でもない非専門職の自分が,ストレスチェック&職場改善に取り組んでも良いのだろうか」と悩まれており,当時の企業上層部の方に相談したそうです。そこで,その上層部の方は,『職場改善というのは,「現場」の改善な訳だから,現場をよく知っている人間がやるのが一番適切。既に病気になった人への対応は産業医等に主体になってもらうしかないけどね。』とおっしゃり,GOサインが出たそうです。

私は,本当にこれは名言だと思いました。職場改善を行うには,もちろん産業医等のかかわりも必要ですが,あくまで主体は現場の人ではないと,現場を改善することは難しいと思います。

「職場環境改善」と「個別のメンタル不調者への対応」は全く別物である点をしっかり意識して,担当主体を選ぶ必要があります。

「単純に仕事量を減らす」ことが目的ではない

そのシステム会社のある部署では,職場分析の結果を元に皆でディスカッションした結果,「自分の仕事が終わっても,早く帰りづらい雰囲気がある。代休も取りづらい。」との意見が出ました。それに対する対応策として,「現在は曜日が決まっているノー残業デーを,好きな曜日に個人ごとに指定できる」,「代休を交代で取る」,「早く帰れよと上司が声掛けをする」といった対応策を取ったそうです。その他にも,職場分析により上がってきた課題に対し,皆でディスカッションし対応策を講じました。

その結果,翌年にはその部署の「仕事の繁忙感」項目はかなり改善しました。かといって仕事が減ったわけではく,その部署の管理監督者によると「仕事量はむしろ増えている」そうです。 

「ストレスを減らす=仕事を減らす=利益が減る」と考えてしまいがちですが,実際にはそうではなく,ストレスチェックと職場改善をうまく行えば,「仕事が増えても,労働者が感じる負担感が減る=仕事の質やモチベーションが上がる=利益が出る」につなげることも可能ということです。

 ストレスチェックはうまく利用すれば効果的

ストレスチェックを行うことが,行っていない場合と比較して革新的な部分は「可視化できる」ことにあると私は思います。皆,なんとなく「このままでは良くない,非効率的だよな」とは感じているのです。可視化することで,皆でディスカッションしやすくなり,改善策が出やすくなり,現場から上層部への説得材料にもなり,経年的に分析もできます。(ただ,それを社内でリードしていけるファシリテーターの存在が重要になってくるのですが,現状ではそのようなことができる人材が多くの企業では社内にはあまり居ないのが問題です…。)

実際,そのシステム会社では,取り組みを開始することで,メンタル不調者がかなり減り,それにとどまらず多くの管理監督者から『職場改善は,メンタル不調うんぬんは関係なく,「職場の生産性向上の視点」から本来的にはすべての部署が行うべきことだよね』との意見も出るようになったそうです。

 ストレスチェック制度を批判する意見も多数聞かれます。確かに,私も完璧な制度であるとは思いません。しかし,使いようによっては,企業の生産性を向上させるための良いきっかけにはなりうるのではないかと思います。

そのためには,単にストレスチェックを行って結果を個人に返すのみ(しかも,その結果は全く会社には伝わらない)ではなく,さらに一歩進めて職場分析→職場改善へ繋げていく必要があると思われます。

 

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