【労働判例】ストレスチェック制度と東芝事件

2015-11-10

(はじめに:「精神科産業医から見た労働判例」のコーナーでは,労働判例に対する私の雑感を書いていきます。私は法曹ではありませんので法・判例の解釈に誤りがあるかもしれませんし,裁判所の訴訟記録は閲覧しておらず判決文のみからの感想であり,また,ブログという字数制限のある中でかなり省略して書いています。それらの点を考慮してご覧いただければ幸いです。)

東芝事件とストレスチェックの関連性

最近,企業の人事担当者の方と話の中で,東芝事件(最判平26.3.24)とストレスチェック制度を関連付けた話題になることがあります。東芝事件の判旨である「使用者は,必ずしも労働者側からの申告がなくても,その労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」ということと,ストレスチェック制度における「高ストレス者が医師面接を希望せずに,会社として何も知ることができず対応できなかった場合の会社の責任・安全配慮義務違反」を関連付けて心配されている話をよく耳にします。

 

東芝事件を拡大解釈して,「会社は,従業員の申告がなくても不調を見抜く必要がある。見抜けずにうつ病を発症させてしまったら,どんな場合でも企業の安全配慮義務違反になる」と考えておられる方もいらっしゃいますが,それは間違いです。
判例を正しく理解するには,判決文の中の1文だけを抜き出して解釈するのではなく,実際にどのような背景があってその1文を裁判官が書くに至ったのかを見なければなりません。

安全配慮義務と自己申告

東芝事件を見てみると,確かに労働者は自分が通院していることを会社に自己申告していませんが,体調不良を会社に訴えており,10日以上体調不良のため欠勤しており,上司に対してそれまでしたことのない業務軽減の申し出を行っているのです。プロジェクトリーダーというかなりストレスのかかる仕事をさせているのは会社としても当然把握している訳ですから,上記のような状態が見られた場合,上司・人事・産業医が連携して迅速に適切な対応を取らなければなりません。通院を申告していないことが労働者の過失かどうかの以前に,企業側の管理体制・対応として不十分であったと言わざるを得ないのではないかと正直感じます。本人が連続欠勤したのが5月末で,会社が実際に業務を軽減したのが8月22日ですので,対応としては遅いと言わざるを得ません。(ただ,平成13年に生じた事件ですので,その当時そこまでしっかりしたメンタルヘルス管理体制を構築できている企業は大企業と言えどもあまりなかったというのも実状か知れません。)

企業が行うべき義務

ストレスチェック制度において「高ストレス者が面接希望しない場合の,安全配慮義務」を考える以前に,ラインケアや産業医との連携体制をしっかり整えること,そして,長時間労働をしている等ストレスが高そうな人に対しては,ストレスチェック制度とは別に,予防的に産業医面談を受けさせてしっかりケアすることの方が重要であろうと思います。

 

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