出張の移動時間は労働時間になるか?

2020-10-03

出張が多く拘束時間は長いけど…

産業医面談をしていると、労働者の方から「出張が多く、拘束時間が長いため、心身の休まる時間がありません」と言われることがあります。しかし、その方の残業時間のデータを確認してみると、それほど長くないといったケースが珍しくありません。

拘束時間は長いが労働時間としてはそれほど長くはならないからくりは、『出張の際の現地までの移動時間は、労働時間としてカウントされていない』ためです。

 

労働時間とは何か

そもそも「労働時間とは何か」については、労働時間の上限等について定める労働基準法においても定義されていません。
判例法理により、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」とされています。それに基づき、過去の判例では「造船所作業員が、作業服へ着替え、保護具を付ける時間」、「ビル管理人の深夜の仮眠時間」、「住み込みのビル管理人が、作業がなく待機している日中の時間」などが労働時間であると認定されてきました。

 

出張前後の移動時間は労働時間か

では、出張で現地まで行く新幹線の中や、帰りの飛行機の中で過ごす時間等は労働時間になるのしょうか?

コロナの影響により、多くの企業で出張はかなり制限されているようですが、ここ数か月間は、新幹線内で見られるビジネスマンの数もかなり回復してきています。その人たちの様子を見ていると、スマホゲームに興じている人、寝ている人、パソコンに向かい何やら資料を必死で作成している人など様々です。スマホゲームしている時間は労働時間ではないでしょうが、帰りの新幹線の中で必死に資料を作成している時間は労働時間じゃないとおかしいというのが一般的な感覚ではないでしょうか。

ところが、過去の判例・通達では、原則的には出張の移動時間は労働時間に含まれないとされています。それに準じて、出張の移動時間は一律に労働時間としない処理を行っている企業も存在するようですが、現代ではリスクのある処理と言えるでしょう。なぜなら、過去の判例・通達は、IT機器が発達していない時代のものであり、出張の移動中には寝たり・酒を飲んだり・読書をして過ごすのが一般的だという前提に基づいて出されているものだからです。
現代においては、上記のような出張帰りに新幹線内でパソコンで報告資料を作成するような時間については、労働時間として報告させるというのが適切な処理と言えるでしょう。一方、新幹線内でビールを飲んだりゲームをしている時間については、確かに車内に拘束されており全くの自由時間であるとまではいえませんが、労働時間としてはカウントされないとというのが通説です。

 

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