産業医面談や復職審査会への弁護士同伴・同席要求は通るのか

2021-06-11

休職中の労働者の方にとって、病気が改善したら復職できるのか、会社が復帰を認めてくれるのかは一大事であり、まさに職業人としてのキャリアや、自分や家族の生活がかかった重大場面といえます。

また、復職に際して求めたい条件がある場合、例えば復職に際しては原職場ではなく異動して復帰したいとか、病状的にフルタイムで働く自信はないものの金銭的に生活が厳しいので短時間勤務から復帰し賃金を得たい等の希望がある場合、会社がそれらの条件を素直に受け入れてくれるかどうかわかりませんので、ある意味、復職の過程が、休職者と会社の「交渉事」「条件闘争」的な様相を呈することがあります。特に、労働者が会社に対して不信感を抱いている場面では、そうなる傾向があるように思います。

実際、私も、労働者の方から、産業医面談への弁護士同席を許可するように要求された経験もあります(その際は、後述の理由でお断りしましたが…)。

では、労働者から弁護士同伴の要求があった場合、産業医面談や復職判定委員会(※)に労働者が選任した代理人(弁護士)を同席させる義務が、産業医や会社にはあるのでしょうか。参考になる裁判例がありましたので、ご紹介します。

(※)復職判定会議や復職審査会とも言い、会社によって呼び方は違います。特に法律で定められた会議でもないため、やり方は企業によって様々で、労働者本人を呼んで復職に際しての希望等を直接聞くケースもあれば、労働者をその場に呼ぶことはせず、事前に産業医や上司らが本人と話した内容を基にして、合議体としての意見を決定するケースもあります。
今回のケースは、前者の、労働者本人にも来てもらって話をする場合に、労働者は弁護士を連れて会議に参加できるのかという話になります。

 

復職審査会への弁護士の同伴要求

紹介する裁判例は、少し前にニュース報道もされていた事件になります(日東電工事件:大阪地裁令和3年1月27日)。

事件のごく簡単な概要としては、プライベートのバイク事故で頸椎を損傷し、下肢完全麻痺、上司不全麻痺となってしまい休職していた労働者の方が、復職を申し出たものの、会社が復職を認めず退職となり、裁判になった事件です。
結論としては、復職を認めなかった会社側の主張が認められ、労働者側の敗訴となっています。

この裁判例では「主治医と産業医の意見が異なる場合、どうなるか」「病気のせいで、従前通りの働き方ができなくなってしまった場合、企業側はどこまで配慮義務があるか」など、興味深く又産業保健の現場でも出会う機会の多い論点が争点となっており、産業医としては大変勉強になりますが、あまり語られることのない「復職判定委員会への弁護士同伴を要求された場合、会社は応じる義務があるか」についても裁判所の判断が行われていたので、その点のみを取り上げてご紹介します。

 

交渉経緯と裁判所の判断

このケースでは、労働者が下肢麻痺のため車椅子利用が必要となっており、自宅(実家に戻っているため神戸)から元職場の広島尾道まで通勤するのが厳しいことや介護上の事情等のため、在宅勤務メインでの復帰を希望する一方、会社側は在宅勤務の適用範囲等を理由にして労働者側の要求を受け入れない姿勢を示しました。そこで、労働者の方は、弁護士を代理人に選任して、復職交渉に臨もうとされます。

交渉経緯の要旨

労働者から会社へのメール
近く開催される予定の復職審査会に代理人(弁護士)2名を同行する。

それに対する会社の回答
労働者の家族ではない代理人2名について同伴することは構わないが、事業所内への立入りは遠慮していただきたい。

代理人(弁護士)から会社への対応
代理人就任通知書を会社へ送付。復職審査会に代理人として同席できないことにつき遺憾であり、審査会同日に代理人と交渉するよう申し入れる。拒否した場合には司法手続等をとる旨を通知した。

裁判における労働者側の主張
会社が復職に向けた代理人交渉を拒否したことは,被告においてあらかじめ障害が残存した原告を休職期間満了によって退職させるという結論を決めていたことを示すものであるのみならず,合理的配慮の提供義務に反する違法なものである

裁判所の判断
雇用契約や就業規則において,会社が実施する復職審査会等について代理人の出席権限が定められていることは認められず,休職事由の消滅の有無という事実の存否の判断に際して,事業者に従業員の代理人と交渉をすべき法的ないし契約上の義務が当然にあるということもできない。そうすると,この点が交渉過程における被告の違法性を基礎付けるということはできない

 

産業医面談への弁護士同伴はどうなのか

このように、復職審査会に労働者が選任した代理人弁護士の同伴を認めなかったことについて、違法性はないと判断されました。
ただ、今回のケースは復職審査会においての判断ですので、産業医面談への弁護士同伴はどうなのかは不明です。

ただ、私見としては、産業医面談も会社における復職判断過程の一環として行われるため、本ケースと同じ判断枠組みになるのではないかと思いますし、さらにいうと、産業医面談においては、なおさら同伴受容義務はないのではないかと思います。

なぜなら、工場長や人事部長等も参加する審査会議と比較し、産業医面談は純粋に「医学的な判断」が行われる場であり、そこに弁護士が同伴すると、冷静な医学的判断に悪影響を及ぼす可能性があると思われるからです。

「弁護士が面談に同伴したからと言って、医学的判断が狂うとは、医師として精神的鍛錬が足りないのではないか」と言われてしまうと、たしかにその通りかもしれません。
しかしやはり、医学的判断の場(医学的「説明」の場ではなく、「判断」の場)に弁護士が同席するのは違和感があります。例えば、手術前や術後の本人・家族への説明の際に、(特に手術で後遺症が残ったケースなどでは)弁護士が同席するというのは十分あり得る話であり、患者の権利として認められるべき場面だとは思いますが、一方で、手術の現場に弁護士が臨席するのはかなり違和感があり、それを認める医師はほぼいないのではないでしょうか(メッシやクリスティアーノ・ロナウドの膝の手術等ならありうるかもしれないと思ったりもしますが、通常はありえないでしょう)。
「リスクの高い手術なので、手術室に弁護士を入れて、手術を見ておいてもらうから」と患者が希望したとしても、それを「そんな、手術室で弁護士にじっと見られ続けたら、手元が狂いかねない!」として医師が断ったとしても、違法性があるとは到底思えません。

産業医面談と手術を一緒にするなと言われるかもしれませんが、「医学的行為」という意味では同じなのではないかと思います。
産業医面談に労働者の弁護士が同席していた場合、「この質問をして、弁護士から非難されないだろうか」「あとから問題にならないだろうか」などとプレッシャーを感じてしまい、本来行うべき必要な質問ができず、適切な医学的判断・評価に悪影響を及ぼす可能性は否定できないと思います。

 

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