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長時間労働・残業をした人への残業時間通知義務と産業医面談について

2018-12-14

産業医・産業保健機能の強化

来年4月から施行される労働安全衛生法改正については以前のブログでも取り上げましたが、その後、省令・通達(厚労省HPへリンク)等も公布されています。

その中には、長時間労働によって生じる心身の健康障害、特に過労死・過労自殺が社会的に大きな問題となっていることから、それらを防止するための施策も含まれています。

労働者に残業時間の実績を通知する義務が生じます

今回の改正において、その施策の内容は多岐にわたりますが、個人的に注目しているのは以下の条文です。

【改正安衛則52条の2第3項】
事業者は,(略), 当該超えた時間(注:1週間あたり40時間を超えて労働させた時間のこと)が1カ月あたり80時間を超えた労働者に対し, 速やかに当該労働者にかかる当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない

【それに関する通達】
当該通知については、研究開発業務に従事する労働者であって当該超えた時間が1月当たり100時間を超えた労働者及び新安衛法第66条の8の4第1項に規定する者(注:いわゆる高プロの者)を除き、新労基法第41条(注:いわゆる管理監督者)に規定する者及びみなし労働時間制が適用される労働者を含め、全ての労働者に適用されるものであること。当該超えた時間に関する情報を産業医に提供しなければならないものであること。
さらに、当該超えた時間の通知の方法等については、追って通知する予定であること。

 

すなわち簡単に言うと、残業が80時間を超えた場合は、会社からその労働者に「あなた残業80時間超えましたよ」と通知しなければならない義務が発生するということです。
具体的にどのように通知すれば良いのかについては、通達にあるように、今後追って行政から通達がでるとのことです。

 

私が想像するに、もし単に『あなた残業80時間超えましたよ』とだけ書かれた通知(メール)が人事等から送られてきたら、それを受け取った労働者は「だから何だと言うんだ!」、「わざわざそれだけメールしてくるなら、その前に長時間労働なんとかしてよ!」と怒る労働者も中には出てくるのではないでしょうか。

そこでおそらく実務的には、残業時間の通知に加え、健康相談の窓口を案内したり、80時間を超えた場合には本人が希望すれば会社は産業医面談を受けさせる義務があることなどを併せて通知することになると思われます。

すると、今までそのような制度があることを知らなかった労働者も「希望すれば産業医面談受けられるんだ」と知ることになり、今後、産業医面談を希望する長時間労働者が増加することが想像されます。これは将に、今回、国がわざわざこのような条文を作った狙いであるとも言えます。

 

昨今、大手広告代理店の新入社員自殺が大きく報道されたこと等をきっかけに、労働者の「働くこと(特に長時間残業)による健康障害」への意識は増々高まっています。
本人が希望すれば受けられるという点では、長時間労働者への面談とストレスチェック高ストレス者面談は共通するところがありますが、私が産業医としてストレスチェック高ストレス者面談をしていても「これだけしんどい思いをしていることを会社に知ってもらおうと思って」、「何かあった時に証拠になると思って」という理由で面談を希望する方が多数いらっしゃいます。

会社としては、もちろん長時間労働を無くすことが最も重要ですが、もし長時間労働になって本人が面談希望した際には、確実に面談を受けられる体制作りが求められます。

長時間労働をさせた上に、本人が希望しているのに医師面談を受けさせないという事態は、最も避けなければなりません。

 

全国で産業医面談できる体制を整えていますか?

今回の改正で変わったわけではありませんが、産業医のいない50人未満の事業場においても、労働者が希望した場合は医師による長時間労働者面談を行わなければならない法的義務が発生します。

弊社では、50人以上の産業医専任義務のある事業場はもちろんのこと、地方の小規模事業場に対しても、精神科を専門とする産業医が、対面またはパソコンやスマートフォンを利用したWEB面談を実施しております。

これから増えるであろう長時間労働者医師面接の体制構築を検討中の企業様は、1件からスポットでも承っておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

2018年労働安全衛生法改正案(産業医,特に心身の個人情報)について

2018-05-01

働き方改革関連法案と労働安全衛生法の改正

現在、働き方改革関連法案が国会で審議されています。
関連法案は8本の法規からなり、やはり最大の世間の注目は、労働基準法の残業上限規制・高度プロフェッショナル制度ですが、産業医が関連する分野でいうと、労働安全衛生法の改正も審議されています。

労働安全衛生法の改正内容(平成31年4月から施行予定)

安衛法改正予定の概略(現時点での主なもののみ。詳細はこちらの厚労省資料を参照)

①産業医・産業保健機能の強化

(1)産業医の活動環境の整備
 a.産業医の誠実職務遂行が義務化  
 b.労働時間等の情報を産業医へ提供することが義務化
 c.産業医から勧告を受けた場合、衛生委員会への報告が義務化 
 d.産業医の業務内容(相談方法等)を労働者へ周知することの義務化 など

(2)労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

➁面接指導等

(1)長時間労働の医師面接
a.現行の100時間が、80時間へ変更(省令レベルでの改正予定)
b.新技術の研究開発等に従事する労働者と高プロの労働者は、長時間労働をした場合、本人希望の有無に関係なく医師面接が義務化

(2)労働時間把握の義務化

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「産業医が誠実に職務を行うこと」、「産業医に対し、会社は労働時間などの必要な情報を提供すること」、「労働時間を会社として把握すること」など、いずれも当たり前過ぎることですが、実際には当たり前のことすら行われていないことも多く、法律でしっかりと定められたことは良いことだと思います

 

ちなみに、安衛法で産業医の選任が義務付けられたのが昭和47年ですので、それから50年近く経ったこのタイミングで「産業医は誠実に仕事をすること」とわざわざ定められたのは、誠実に仕事をしない産業医が存在することが、ブラック産業医問題として雑誌で特集されるなど、世の中に広く知られるに至ったためかもしれません。

一方で、逆に、産業医から勧告を受けても、きちんと対応し改善しない会社も多いため、「衛生委員会という半数は労働者(労働組合)側のメンバーで構成され、労働者の監視が行き届く所に報告すること」を義務にしたのだろうと思います。

なお、この法令が施行されると、「産業医に言われたことは、全部委員会に報告しないといけないのか」と勘違いされる企業も出てくるかもしれませんが、一般的には、「産業医の勧告」と「産業医からの助言や指導」は違います。私自身、企業に対し、労働衛生に関して助言・指導するのはそれこそ毎日のことですが、法に基づいた勧告は産業医人生で行ったことはありません。なぜなら、産業医が勧告してそれでもその勧告が尊重されない場合は、会社に安衛法13条4項違反が発生しますので、勧告権は非常に重いと考えるからです(私の場合、幸いにも、勧告までせずとも、助言指導のレベルでしっかり対応して下さる企業がほとんどです)。

よって、産業医から、「これは安衛法13条に基づく勧告です」「これは助言レベルではなく勧告です」と言われた場合にのみ、衛生委員会への報告義務が発生すると考えれば良いでしょう。

なお、産業医の勧告に関しては省令で「産業医は、勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の内容について、事業者の意⾒を求めなければならない」と定められる予定です。
つまり、産業医が勧告しようとする時は、会社に「こんな勧告したいと思うんですけど、どうでしょう」と事前にお伺いを立てないといけないことになります。これについては、労働政策審議会でも「勧告は産業医の切り札であり、手の内を事前にさらすのは、強化ではなく逆に弱めることになるのではないか」との意見が労働組合代表の方から出ていました。
一方、経団連の代表の方は「産業医は圧倒的に労働者のほうを向いている」と言い、産業医は労働者の味方をして中立的ではないと主張されたり、「勧告を強化する意味は、私はちょっと分からないです」「産業医の意見が、いつも全部正しいということは多分なく、事業場のことは事業者のほうが詳しい」と仰るなど、この辺りについては、使用者側と労働者側の駆け引きが感じられ、見ていて興味深い所ではあります。

 

 

労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

このように、当たり前すぎる内容も多い今回の改正内容の中で、最も重要であると個人的に思うのは、「労働者の心身の状態に関する情報の取扱い」の部分です。
(産業医の業務内容や相談方法を労働者に周知することの義務化というのも、密かにポイントかもしれません。産業医の名義貸し等で産業医活動が形骸がしている場合には、業務内容も相談方法も、何もあったものではないですので…。)

その部分の改正案は以下のようになっています。

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改正案104条(新設)

1事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではない。

2事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

3厚生労働大臣は、前二項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を公表するものとする。

4厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。

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このように、労働者の心身(メンタル+体の両方)に関する情報の取扱いについての規定が新設されます。今後、実際にどのように企業の中でそれを行っていくのかの詳細は、指針で定められることとなりました。

 

ストレスチェック制度が法制化された際には、ストレスチェック指針にてㇽーㇽが決められ、労働者のプライバシー保護に関する取扱いが明確にされました。
しかし、一方で、ストレスチェック制度のみが詳しく規定され、健康診断結果を始めとしたその他の健康情報に関することは、個人情報保護法や通達等での取り決めはあるものの、曖昧な部分がかなりあると思われます(この点については、私が産業医事務所を開設したての頃に書いた3年前のこのブログ記事でも取り上げています。)。

例えば、『雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項』においては、『事業者は 健康診断の結果のうち診断名、検査値等のいわゆる生データの取扱いについては、その利用に当たって医学的知識に基づく加工・判断等を要することがあることから、産業医や保健師等の産業保健業務従事者に行わせることが望ましい』とされていますが、これはガイドラインレベルであり、法令で規定されているわけではありません。
 実際、小規模の営業所の所長が、所員みんなの健康診断結果、いわゆる上記の生データを見ているケース(もちろん所長に悪意はなく、悪いデータの所員へは病院受診を勧めたり、業務負荷を調整するために見ている)も存在するのではないでしょうか。
名義貸し産業医から、弊社への産業医変更を検討されている企業において、健診の就業判定をしているかヒアリングした場合に、支店長や所長様が「産業医は名義貸しなので医師に健診結果を見てもらったことはありませんが、私が全部チェックして病院へ行くように指示しています。しっかりやっていますので大丈夫です。」と仰るケースを体験したのも、一度や二度ではありません。
 
ストレスチェックの結果は法律で禁止されていると聞いて見ないことにしている所長が、健康診断結果については悪気なく(むしろ皆のために、管理職の務めとして)チェックしている一方で、自分の健診結果はプライバシーなので所長に見られたくないという所員も一定数いると思われます。
また、諸事情から診断書を会社に提出した場合、会社の中のどのレベルの人まで見るのか(人事のみか、上司もか、はたまた社長もか…)、労働者が不安に感じるケース等もあるものと思われます。

 

労働者の心身情報の取扱い検討会には要注目

今後の国会の推移にもよりますが、おそらく改正案は成立するものと思われます。

今後は、指針において詳細が定められますが、「労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの在り方に関する検討会」が厚生労働省で行われており、4月23日に第1回が開催され、骨子案なども公表されています(厚労省HPリンクはこちら)。

 

個人情報の取扱いについては、年々厳重さが求められるようになっており、特に労働者の健康情報は特に機微なものになりますので、今後も要注目の分野と言えるでしょう。
また、産業医としても、今まで以上によりハッキリと、健康情報に関する取扱いルールが決まると、より活動しやすくなります(現在では、労働者のプライバシー保護と、その一方で会社の安全配慮義務履行補助のために一定の情報は会社に伝えなければならない中で、悩むことも多いため)。

 

次回ブログでは、検討会の骨子案について検討してみたいと思います。

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