メンタル不調者への復帰後の対応について

2016-05-24

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

うつ病等のメンタル不調者の職場復帰・復職基準はどうあるべきか

メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ

③メンタル不調者への復帰後の対応について(本記事)

メンタル不調者対応における就業規則の重要性

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病状が悪いまま復帰した、または復帰後すぐに調子を崩してしまったメンタル不調者がいたとして、企業はその方に対してどのような対応ができるのかを考えてみましょう。

 

この際にも重要になってくる視点は、職場における健康問題に対応するための基本である「疾病性と事例性」です(疾病性と事例性については、こちらの記事もご参照下さい)。

 

復帰したメンタル不調者に対しても、まずは事例性に注目して対応を考えていきます

 

①事例性がないケース

「病状が悪いけれども、仕事はできている」というケースです(あまり無い、レアなケースかも知れませんが)。

 このようなケースにおいて企業が持つべき視点は、「確かに仕事はできている。しかし、現在の仕事をさせ続けることで、病気が悪化することは無いのか。」ということです。

 現在の仕事を続けることで病状悪化が予想される場合は、悪化を回避するための適切な手段を講じる責任が企業にはあります。これは、本人の申し出(「調子が悪いです」とか「業務を減らして下さい」等の訴え)が無い場合でも、企業の責任が免除されるものではないと思われますので注意が必要です。

 なぜなら、メンタル不調の既往があり、復帰した直後数カ月という病状不安定になり得る時期なのですから、企業には「病状が悪化するかもしれない」という予見可能性があるからです。

 企業としての責任を果たし安全配慮義務を履行するためは、仕事ができていたとしても(=事例性がなかったとしても)少なくとも復帰後数か月間は定期的に産業医面談を行い、「現在の業務で病気が悪化することはないか、または現に悪化していないか」を医学的視点からしっかり確認することが重要です。

 

➁事例性があるケース

これは、職場復帰はしたものの、遅刻・早退、欠勤、低調な業務パフォーマンス等が続く状態です。病状が回復していない状態で職場復帰し、そのような状態になってしまうケースはしばしば遭遇します。企業が対応に困ってしまうのも、このようなケースが多いと思われます。

まずは、なぜ遅刻等が続くのかを本人にしっかり確認しましょう。

もしかすると、電車が止まってしまったり、目覚ましの電池が切れたせいかもしれません。そのような不運が、たまたま復職後に偶然重なってしまっているだけかも知れないのです。そのような場合は、病気のせいではありませんから、「社会人たる者、目覚ましは2つセット」などの指導をすることになります。

 

一方、やはり病気のせいで朝起きれず遅刻・欠勤となっていたり、出勤しても集中力がなく業務パフォーマンスが低下している場合等には、どのように対応すべきなのかが問題となってきます。

選択肢その1:不完全な労務提供でも受け入れる

病気による遅刻・欠勤等があり、労働者の労務提供が不完全である場合には、債権者たる使用者は完全な履行を求める権利があるわけですが、一方で、完全な履行は求めず、不完全な状態の労務提供でも受領し続ける選択肢をとっても良い訳です。

つまり、復帰したばかりの人が再度休職になってしまえば、「本人もショックだろう」、「金銭面でも困ってしまうだろう」などの理由から、遅刻や欠勤を認めて働き続けてもらっても良いのです。

 

ただ、このように病状が悪いことを認識しつつそのまま働かせる場合には、通常よりも高度の安全配慮義務が生じますので注意して下さい。 つまりは、「病状が悪い人が、さらに悪くならないよう仕事を与え、手厚く配慮する安全配慮義務」が生じるということです。これは非常にレベルの高いことですので、産業医との綿密な連携が必要になってきます。

 

選択肢その2: 病状が悪く、事例性が生じたままの勤務は避けたいと考える

上記のように、遅刻や欠勤を認めて働き続けてもらうという判断をする企業もありますが、「病状が悪いまま勤務すると、さらに病気が悪化しかねず本人のためにも良くない」とか、「事例性があるため周囲(顧客や同僚等)に迷惑がかかっており、甘受できない」という立場をとる企業もあります。その場合には、再度休んで自宅療養してもらうことも考えなければなりませんが、その際、重要なのは以下の3つです。

事例性の根拠

遅刻や欠勤であれば客観的に評価できるため、特に問題にはなりません。

問題となりうるのは「債務不履行といえる程の業務パフォーマンスの低下」があると判断する場合ですが、その判断に際しては「なぜ低下していると言えるのか」という点と「その評価は公正なのか」という点、さらには「それは労働契約上、債務不履行と言えるのか」が重要になります。

 

なお、「なぜ低下していると言えるのか」についてしばしば経験するのが、あまり仕事ができていない理由が、「会社が仕事を与えていないから」なのか、それとも「本人の病気のせいでできていない」のかを、上司も(場合によっては本人も)意識して区別していないケースです。

後者の場合は事例性があるということになりますが、前者の場合であれば事例性はなく単に会社のマネジメント(業務配分)が悪い、本人に責任はないということになりますので注意が必要です。

 

そういう意味でも、メンタル不調者に対して長期間にわたり漫然と業務負荷を低減することは、事例性を判断する際の混乱の原因となりかねません。産業医の立場から会社とメンタル不調者の両方の話を聞くと、会社は「病気だから仕事ができない、こなせない」と評価している一方、メンタル不調者の方は「自分はできるのに、会社が簡単な仕事しか与えない」と主張されるケースもしばしば経験するところです。

 

医学的評価

事例性が病気によるものだと判断するには、上司や人事の視点だけではなく、産業医による医学的視点を必ず入れるようにしましょう。

就業規則を始めとした労使間のルール

これについては、次回に続きます。

 

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