メンタル不調関連の就業規則整備のポイント①
前回の記事からの続きです
では、どのような点に注目して就業規則を整備すればよいのでしょうか?
メンタル関係でトラブルになりがちなポイントに応じて、主な点を以下に5つほど挙げてみます。
(なお、現在の就業規則を以下のような形に変えることは、多くの場合、就業規則の不利益変更に当たりますので、弁護士や社労士と相談しながら慎重に行う必要があります。)
①受診命令
1)初発の場合
会社で働いている労働者の方が、遅刻や欠勤が続いており、周囲の誰の目から見ても「体調が悪そう」な場合であっても、本人が「大丈夫です。放っておいて下さい。」と言い、病院受診を勧めても拒否されるケースがあります。
遅刻等で事例性が発生している以上、会社としてはどうにかして一度病院受診をしてもらいたいと考えて当然と言えますが、本人が拒否している場合どうなるのでしょうか?
裁判例では、就業規則に受診命令の定めがない場合でも、「労使間における信義則ないし公平の観点に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であることから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、従業員はこれに応ずる義務がある。」とされていますので(京セラ事件 東京高裁 昭和61.11.13)、就業規則に定めがなくても受診命令は可能です。
一方、就業規則で受診命令を定めれば、それは労使間の労働契約の内容となりますので、就業規則に定めのない場合の「合理的かつ相当な理由」よりも緩やかな理由で、受診命令が可能になります。
つまり、簡単に言うと,「就業規則に定めなくても受診命令は可能だが、定めたほうがよりベター」ということになります。
2)復帰後の場合
復帰したメンタル不調者には、主治医がいて治療を受けているので1)のような「受診してくれない」といった問題はあまり生じません。
一方で、復帰後、明らかに疾病による事例性が生じており、働き続けることが難しそうにも関わらず、主治医が本人の希望を汲んで「働き続けても大丈夫です」と診断することもあり得ます(主治医の意見には、本人・家族の希望が含まれる場合もあることは、厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも記載されていることです。)
そのように、主治医の意見・判断に対し、合理的な理由を持って疑義が生じている場合は、会社が指定する医師(産業医も含む)に受診させ、セカンドオピニオンをとることも必要になってきます。その際には、1)と同様に、就業規則に受診命令規定があれば、スムーズに指定医への受診に繋げることができます。
➁休職要件
就業規則の休職要件として、例えば、
1)「6カ月間連続して病気欠勤が続いた場合に、休職とする。」
というような規定になっている場合があります。
一方で、以下のような休職要件にしている企業もあります。
2)「精神または身体上の疾患により通常の労務提供ができず、その回復に一定の期間を要する時は休職とする」
1)の場合、「連続して欠勤すること」が休職要件となっているため、出勤と欠勤を繰り返すメンタル不調者に対して休職命令を発することはできません(労務の受領を拒否して連続欠勤と同視する方法もありますが、ここでは割愛します)。
企業によっては大企業を中心に、月給制で欠勤しても給与が減らない場合もありますが、1)のような就業規則の場合は、6カ月に1回だけ出勤して、給料を満額もらい続けることも理論上は可能になります(6カ月に1回しか出勤できないほど悪い病状は、就業規則の普通解雇事由に当たるのではないかとも言えますが…)。
そのような事態を避けたい場合は、1)のような定め方はせず、2)のような内容に変更する必要があります。
次回の記事へ続く。