上司「電話していいの?」休職者「電話が怖い!」メンタル不調者との連絡について
そもそも休職制度とは
休職とは、労働者が病気等で仕事ができない場合に、労働契約を維持したまま一定期間、勤務を免除する制度です。
労働基準法等において、特に休職制度を定める義務が企業に課されているわけではありませんので、どのような休職制度を定めるか、場合によっては休職制度自体を設けないことも企業の自由です。
但し、休職制度がなく、「病気になって一定期間働けない⇒すぐに解雇又は退職」にした場合、その解雇が有効かどうかは、「客観的に合理的な理由があるか、社会通念上相当であるか」の観点から判断されることになりますが(労働契約法16条)、一定程度の規模の企業において休職制度を設けずにすぐに解雇とすることは社会通念上相当でないと判断される可能性があり、また人材確保・活用の観点等からも、ほとんどの企業においては就業規則に休職制度を設けているものと思います。
病状報告をしてもらう必要性
このように休職とは解雇猶予措置であり、その期間中、労働者が自由に好きなだけ休める権利を与えるものではありません。労務の提供が可能な状態まで回復したのであれば、労働者には職場復帰する義務があります。ですので、現在、療養が必要で労務の提供が不可能な状態が続いているのかどうかを確認するため、企業が休職中の労働者に定期的に病状報告をもとめること(診断書の提出等)も、可能です。
また、休職中、本人と全く接触を持たないでいると、本人からある時突然に、復帰可能の主治医診断書が提出されることになります。
そうすると、復帰先の受け入れ態勢や、業務の調整などの準備ができず、企業は慌ててしまうことになります。そのような事態をさけ、復職者がスムーズに職場復帰できる環境を準備するためにも、定期的に接触・病状報告を求めることは必要であると言えます。
厚生労働省の手引きにはどう書かれているか
しかし、不適切な形で接触すると、こちらの記事でも取り上げたW社事件(京都地裁 平成28年2月23日判決)のように、会社の接触自体が注意義務違反と判断され、労働者に対する損害賠償義務が生じることになりますので注意が必要です。
では、適切な接触の仕方とはどのようなものでしょうか?
休職中の労働者とどのように接触すべきか、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも書かれていますので、一部引用します。
『管理監督者及び事業場内産業保健スタッフ等は、必要な連絡事項及び職場復帰支援のためにあらかじめ検討が必要な事項について労働者に連絡を取る。』
『ただし、実際の接触に当たっては、必要な連絡事項(個人情報の取得のために本人の了解をとる場合を含む。)などを除き、主治医と連絡をとった上で実施する。また、状況によっては主治医を通して情報提供をすることも考えられる。』
つまり、「など」に何が含まれるかの解釈にもよりますが
・必要な連絡事項(傷病手当金の手続等)を伝える ⇒主治医との連絡なしで行ってもOK
・病状、体調(=職場復帰支援のためにあらかじめ検討が必要な事項)を聞く ⇒主治医と連絡を取ったうえで行う
が基本であると考えられます。
就業規則に病状報告義務を入れる意味
しかし、上司等が休職者に「体調はどうですか?休んで良くなりましたか?復帰はいつごろになりそうですか?」と聞くために、わざわざ主治医に連絡をとって許可を得ることがあるでしょうか?私の経験上、そこまでしているケースは見たことがありません。実務的には、後述のように本人が嫌がったり拒否したケース以外は、本人が接触に同意したものと考えて、連絡・接触を行っている場合がほとんどだと思います。
しかし、厚労省の手引きでは「主治医と連絡を取ったうえで接触すべき」となっているのです。
もし仮に、会社と労働者の間でトラブルに発展し、「会社から接触されたことで病状が悪化した」と主張されたら、会社としては不利な状況に追い込まれるかも知れません。なぜなら、厚労省の手引きに(解釈にもよりますが)逆らった接触をしているのですから…。
そのようなトラブルを極力避けるためには、就業規則に以下のように定めるのもひとつの方法です。
例:
私傷病休職中、社員は会社の求めに応じて、病状等について定期的に報告しなければならない。また必要に応じて、会社産業医による面接を受けなければならない。
就業規則(=労働契約の内容)に定めたからといって、無制限に接触できるわけではありませんが、就業規則に定めない場合よりかは、会社の行為の正当性が認められやすくなると思われます。
合理的・正当な範囲で報告を求める
就業規則で病状報告義務を定めたとしても、例えば「毎日病状を報告すること」等とするのはやりすぎです。
なぜなら、休職しているメンタル不調者は、出勤できないほど病状が悪いわけです。そして、会社から離れ療養に専念させるために休職させているのです。よって、常識的に考えて本人の過度の負担になるような病状報告義務を課してはいけません。
一般的には、月に1回程度の報告義務であれば可能であろうと思われます。
また、薬の内容や病状等、医学的事項をを事細かに聞くのは、産業医などの産業保健スタッフに担当させるべきです。人事や上司が本人に聞くのは、「体調は上向いているか、それとも平行線か?」「病院へちゃんと通院しているか?」「復帰の目途について主治医から何か言われているか?本人希望はあるか?もしあれば教えてほしい」等の程度に留めましょう。
本人・主治医から拒否された場合の対応
産業医活動をしていると、しばしば「休職中の本人から、連絡を取らないで欲しいと言われてしまったが、どうすれば良いか」というご相談を受けることがあります。
また、まれに、休職者の主治医から「会社が接触したから病状が悪化している。どうしてくれるんだ。」とお叱りの電話を頂いたというケースも聞いたことがあります。
本人が接触・連絡を嫌った場合、当然ですが、まずはその理由を聞きましょう。ほとんどの場合、会社のことを思い出すとプレッシャーになる等の理由を仰ると思いますが、もしかするとそれ以外かもしれません(例えば、「電話が盗聴されている」など(統合失調症等ではありうる話です)。その場合は、直接自宅まで伺い、病状を聞く必要が生じてきます。)
その場合、その後は無理に接触することは控えましょう。病状が悪化するかもしれない認識を持ちながら、それでも接触を続けることは、実際に病状が悪化してしまった場合には不法行為責任を問われる可能性があります。
そのように私から企業担当者へご説明すると、「では、復帰まで一切連絡はとれないのか。いきなり主治医の復帰可の診断書が提出されるまで待つしかないのか。」と心配されますが、そのようにならないための対応方法があります。
連絡・接触に耐えられるかどうかも病状確認のひとつの手段
その方法とは、本人へ対し、
「では、主治医の先生とも相談しながら、連絡を取っても病状が悪化しない状態まで回復したら、すぐに会社まで報告して下さい。」
「いつ会社と連絡を取れる状態になったかは、回復経過把握の目安にしますのでご理解下さい。」
と通知することです。
これにより、復職希望や復帰可の主治医診断書をいきなり出されるようなことを避けることが、理論上はできるはずです。
なぜなら、「会社と連絡を取れるまで回復した状態」から「職場復帰し働けるまで回復した状態」へ移行するには、相当の時間を要するはずであり、接触可能な状態まで回復したという報告を飛ばして(または同時に)、いきなり復帰可の希望を出すことは、医学的にありえないからです。
さて、メンタル不調者の休職に関して、5月6日の記事から全6回にわたりお伝えしてきました。まだまだ書ききれなかったこともたくさんありますが、ご参考になれば幸いです。