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今年6月の労働安全衛生規則改正に関して、通達内容も含めた注意点

2017-06-20

平成29年6月1日より、労働安全衛生規則(以下、省令)が改正され施行されています。

産業医に関する改正としては、大きく3点あります(職場巡視頻度については昨年11月の時点で既に記事にしています のでご参照下さい)。

➀産業医の職場巡視頻度について

➁健診結果に関して就業判定をする上での医師への情報提供義務

➂産業医に対する長時間労働者の情報提供義務

 

労働衛生に関する雑誌やインターネット上では、今回の省令改正についての記事も多数見られますが、私の見た限り、省令改正に関する通達(基発0331第68号)についてまで踏み込んで記載しているものは少なかったため、今回はその点についてまとめてみることにします。

 

➀産業医の職場巡視に関して

産業医の職場巡視を2か月に1回とするためには、省令上は以下の要件が必要になります。

 

1.事業者(会社)の同意

2.衛生管理者の巡視結果の産業医への提供

3.その他、衛生委員会での調査審議を経て、会社が産業医に提供することにした情報の提供

 

そして通達において、1~3について詳しく記載されていますので、順に見てみます。

 

会社の同意について

会社の同意とだけ聞くと、社長や人事・総務部長等の労働衛生に関するトップの人の同意でOKなように感じてしまいますが、通達上は、衛生委員会での調査審議の上で決定するようにとなっています。

 

ストレスチェックに関してもそうですが、職場の労働衛生に関する事項については、労使がともに参加している衛生委員会で調査審議して決めるという傾向があるように思います。しっかりと衛生委員会を開催することが重要です(衛生委員会の重要性については こちらの記事もご参照下さい。)。

 

また、一回OKとなれば、その後もずっとOKという訳ではなく、一定期間を定めて、その都度産業医の意見を聞き調査審議し直すことが必要であるとされています。

 

衛生管理者の巡視結果について

衛生管理者は週1回以上職場巡視をしなければならないと法令で定められていますが(安衛則11条)、そもそも実施されてますでしょうか?実施していない会社も多数存在するのではないかと思いますが、確実に実施するようにしましょう。

もし、衛生管理者が週1回以上の職場巡視をしていない場合は、産業医の職場巡視を2か月に1回にすることはできません。

 

また、巡視結果については、以下の事項を含まなければなりません。

・巡視の日時、巡視した場所
・安衛則第 11 条1項の「設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるとき」と判断した場合における有害事項及び講じた措置の内容
・その他労働衛生対策の推進にとって参考となる事項 

それらの情報を産業医に月1回以上提供してはじめて、2か月へ1回への変更が可能となります。 

実務的には、上記事項を含んだチェックシートのようなものを作り、毎月産業医に提供するのが良いでしょう。

(全くの余談ですが、今回の産業医の月1回と同じく、そもそも衛生管理者が週1回職場巡視する意味はあるのかという議論にはならないのでしょうか…。)

 

その他の情報について

まず、今回の省令改正点のうちの一つである「産業医に対する長時間労働者の情報提供」がしっかり行われていることが必要です

 

その上で、どのような情報を産業医に提供することにするかは、事業場の実情に応じて、適切に定めれば良いとされていますが、通達には一例として以下の情報が挙げられています。

・健康への配慮が必要な労働者の氏名(安衛法66条の9で規定)及びその労働時間数
・新規に使用される予定の化学物質・設備名及びこれらに係る作業条件・業務内容
・労働者の休業状況

 

➁健診結果に関して就業判定をする上での医師への情報提供について

医師から求められた場合に、会社が医師へ提供すべき情報は以下となります。 

労働者の作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業等の回数・時間数など

この点については、そもそも健診結果に対する医師の意見聴取をできていない会社も相当数存在すると思われますので、確実に実施するようにしましょう(こちらの健診に関する記事もご参照下さい。)

 

なお、現状(省令改正前)でも、上記情報を医師から求められた場合、情報提供を拒否して秘密にする企業もあまりないと思いますので、この改正点は実務上それほど大きな影響はないように思います。

 

➂産業医に対する長時間労働者の情報提供について

休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が、1月当たり100時間を超えた場合は、その労働者の氏名及び超えた時間に関する情報を産業医に提供しなければならないこととなりました。

 

そして注意しなければならないのは、そのような労働者がいない(該当者なし)の場合も、その旨を産業医に伝えなければならない点です

 

また、健診の就業判定に関する情報提供とは違い、長時間労働者の情報は、産業医から求められなくても、会社から産業医に情報提供しなければならない点も注意しましょう。
「産業医から聞かれなかったので、伝えませんでした」はNGですので注意が必要です

しっかり産業医とコミュニケーションを取り、会社側から情報提供するようにしましょう。

 

今後も続く、産業医の業務と責任の拡大

今回、産業医の業務について省令改正が行われましたが、今週日曜日の日経新聞1面にも特集されていたのでご存知の方も多いかも知れませんが、こちらの厚生労働省資料にもある通り、今後も法改正が予定されています。

昨年の電通の過労自殺事件を契機に、長時間労働対策(労基法改正も予定)・働き方改革の流れが世の中全体で進んでおり、産業医の重要性や活動を強化する方向になっています。 

名義貸しの産業医や、副業として活動している産業医ではなく、産業医業務に特化したプロの産業医をお探しの企業様は、お気軽に当社までお問い合わせ下さい。

【メンタル不調者の復職】半日勤務・短時間勤務・軽作業が必要という主治医診断書について

2017-03-12

私は精神科産業医 兼 特定社労士という立場でお仕事を頂いている関係上、労働判例を読む機会を多く持つようにしています(単に読むのが好きだというのもあるのですが)。

「労働判例」の雑誌もよく読みますが、号によっては、掲載されている判例の多くが労働衛生、特にメンタルヘルスに関するものであったりします。(直近の3月1日号を見ても、大見出しの3つの判例は➀無断欠勤で懲戒免職 ➁警備員の脳出血 ➂長時間労働による精神疾患発症・自殺というラインナップで、3つのうち2つが健康関連です)

 

印象的な裁判例

そんな中、過去に読んだ判例の中で、タメになった判例の一つに、I商事事件(東京地裁 平 25.1.31判決)があります。

その事件の概要をごく簡単にまとめると以下の通りです。

・I商事の総合職のXさんが、双極性障害(躁うつ病)のため、休職するに至った。

・休職期間満了の約2か月前から、トライアル出社をするも、会社は最終的には病状回復が不十分であるとして復職を認めず、退職となる。

・退職は無効との訴えをXさんは起こすが、認められなかった。

 

弁護士の先生方の解説

この判例に対する、弁護士の先生等の解説・ポイントには、以下のようなことが挙げられています。

 

➀復職可能性を検討すべき職種は、あくまで総合職の中

休職者が復帰する際、元の職場に戻れない病状であるが、他の職場・職種なら可能かもしれない場合、会社はどこまで範囲を広げて復帰後の職場を探す義務があるのでしょうか?

 

例えば私が、病院と勤務医として労働契約を結んでいる場合において、何らかの理由(例えば医療ミスのトラウマ)で私が医業をできなくなったとして、受付窓口の事務員ならできると私が希望した時、病院は私を事務員として雇い続ける義務があるのかという問題です。
 

本判例において裁判所は、「復帰時に検討すべき職種は、あくまで総合職内で」という判断を示しました。総合職として労働契約を結んでいるのだから、あくまで総合職として想定される職種・職場内で検討すればよく、一般職まで広げて検討する必要はないということです。

そして、I商事の総合職はどんな仕事でも
「管理職および将来管理職となることを期待された幹部候補の正社員であり、非定型的な役務を提供し企業が享受する具体的な利益を考慮したうえであらゆる役務に臨機応変に対応することが要求される」
「社内外の関係者との連携・協力が必要であり、その業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされる」
ため、Xさんはそこまで回復していないと判断されてしまいました。

 

他の裁判例では、なるべく広い範囲で、本人ができる仕事を探してあげて雇用を継続しなさいよという判断が多いですので、さすが誰もが憧れるエリート集団である総合商社の総合職(高給な分、かなりハードワーク)は甘くないといったところでしょうか。
普通の会社であれば、裁判の結果も違っていたのかもしれません。

➁復帰が可能であることを証明するのは誰の責任か

復職可能性(休職事由の消滅)の立証責任が労働者側にあると明示した点も、本判決のポイントであるとされています。

ただ、実際には、企業側も労働者が働ける状態ではなかったことを立証しなければならないことを免れる訳ではなく、産業医の判断や、トライアル出社中の勤怠・成果等の記録も重要になってきます。

 

私なりの視点~時短勤務という主治医診断書など~

弁護士の先生が挙げて下さるポイントは上記のようなものですが、私はあえて少し違った角度から、私なりに「へぇ」となった点を挙げてみたいと思います。
それは、主治医の診断書内容に対する、裁判所の解釈です。

 

主治医の先生は、会社に対し以下の内容の書かれた診断書を提出しています。

『就業上の注意点:①再発防止のために,気分安定剤の規則的な服用が必要である。②トライアル出社の方法としては,午前中,午後2~ 3時,定時迄と,徐々に勤務時聞を延長していただくことが望ましい。』

そして、この記載が、Xさんが病状回復していたかどうか裁判所が判断する際に、Xさんにとって不利な証拠となっています。

具体的には、裁判所は、

『職場復帰する際の就業上の注意点として,定時勤務ではなく時短勤務から開始するのが相当であると指摘しているのであるから本件トライアル出社開始時点の原告の病状について,必ずしも治癒・寛解に至っていると診断していたものではなく精々本件トライアル出社ができる程度に病状が安定していると判断していたにすぎず,被告の総合職として,債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したと判断していたわけではないことは明らかである』と述べています。

 

さらにXさんにとって悪いことに、別の主治医M医師(当時の主治医からXさんの治療を引き継いだ先生)が、裁判所に対する意見書に、

『精神疾患の患者が自宅療養によって回復するのは7,8割程度であって,復帰の初めからほかの従業員と同じ業務をこなすことを原告に期待すべきでなく,時短勤務から始めるべきである』と書いてしまいました。
 
この意見書に対し裁判所は、

『M医師は,本件トライアル出社開始時において,原告(Xさん)がいまだ回復していなかったことを自認しているともいうべき』と厳しい判断をしているのです。

 

裁判所は、その他諸々の証拠等も含めて、Xさんは回復していなかったと判断したのであって、上記の主治医の診断書・意見書のみで判決が決まった訳ではありませんが、Xさんにとって不利に働いた可能性は否定できません

 

私も産業医として実務を行う中で、「半日勤務から開始する必要がある」等と書かれた診断書を見ることがありますが、果たして主治医の先生は、このように万一労使トラブルになった際に、自分の診断書が患者さんにとって不利な証拠となる可能性があることを想定されて書かれているのだろうかと感じてしまいます。

なんとなく、「半日勤務からの方が、負担が軽そうだから」とか、「患者さん本人が希望するから」等の理由で、とりあえず書いておこうというのは患者さんにとって不利益になる危険性がありうると言えるでしょう。また、そのような診断書を受け取った会社に「まだ十分回復していないんだな」という印象を与えることにも繋がりかねません(後述)。

 

もし、どうしても半日勤務からと書くのであれば、患者さんの不利益になるのを避けるため、

「半日勤務からの開始が望ましい。但しその趣旨としては、現時点でフルタイム勤務が可能な状態まで回復しているが、より確実に職場に復帰できるようソフトランディングの意味合いから勧めるものである。」

などと書くべきなのかもしれません。

 

これを企業側の視点から見ると…

逆に企業側からすると、「半日勤務・時短勤務が必要」との主治医診断書は、未だ回復不十分であるとして復職を認めない判断を企業がする場合、その判断が正当であることを証明するための証拠を、わざわざ主治医が書面にして送ってきてくれたことになります(皮肉っぽい言い方ですが…)。

また、もう一つ気を付けたい点は、上記の裁判所の判断からもわかるように、一般的には

「半日勤務・時短勤務からの開始が必要」=「まだ十分には病状は回復していない。」

との解釈になるのです。

よって、「半日勤務・時短勤務が必要」と書かれている人を、職場復帰させる判断をした場合、通常にも増した安全配慮義務が会社には課されることになります。

なぜなら、
『病状が悪いと認識しながら職場復帰OKと判断したのだから、会社として当然ながら極めて手厚いフォローをしてあげるのが筋でしょう』
となるからです。
具体的には、毎日上司が手厚く本人をフォローしたり、すぐに産業医に相談できるような体制が求められます。

よって、このような充分なフォロー体制が整っていないにも関わらず、「半日勤務・時短勤務が必要」と書かれた不調者を安易に復職させることは、会社にとって非常に危険なことであると認識する必要があると言えます。

ストレスチェック・高ストレス者面接のトラブル回避のために

2017-01-28

ストレスチェックが義務化され、昨年11月末までに検査を実施する義務が企業に課されました。

その後、12月~今年1月にかけて、私自身ストレスチェック高ストレス者面談の依頼もたくさん頂き、かなり忙しくなりましたが、最近はピークが過ぎて落ち着いてきました。

そこで、ストレスチェック初年度を受けての感想、特に、高ストレス者面談を行っている先生方にお伝えしたいことを書いてみたいと思います。

(この記事は、企業向けではなく、医師向けの内容となっております。)

 

面接を希望する人が少ないとか、集団分析をして組織改善につなげる必要があること等は、当ホームページの過去の記事でも書いてきましたし、ちまたの記事等でも散々書かれていることですので、今回は割愛します。

 

心配になる企業の対応

産業医として、実際にストレスチェックに関わり、高ストレス者面談を多数行ってきましたが、その中で企業(又は外部機関)の対応として『それで大丈夫なの!?』と驚くような経験もありました。

 

とある従業員数千人レベルの大企業は、外部機関が提供しているストレスチェックシステムをそのまま利用していましたが、従業員がネット上で受験する際に一番初めに出てくる画面が、『あなたは、いまから受けるテストの結果を、会社に提供することに同意しますか?』であり、そこでYES/NOに答えなければ、検査に移れないというのもありました。
(ストレスチェック制度上、受検結果が出る前の段階で、結果提供の同意・不同意を会社が取得することは認められてないのですが……)

 

大企業でもこのような状況ですから、中小企業ともなると、真面目にしっかりと行っている企業が大多数ではあるものの一部においては、不適切な事態が生じているのも想像に難くないでしょう。
衛生委員会で審議していない、ストレスチェックの実施規程すらない等はほんの序の口であり、にわかには信じられないような事も行われていると伝え聞きます。

そのような状況ですので、おそらくストレスチェック実施の不備や企業の不適切な行為に気付いた従業員と会社とのトラブルが、今後増えてくるものと想像されます。

 

そんな状況下で高ストレス者面談を行うには、面接医師としてやるべきことをしっかりやっておくことが、労使間のトラブルに面接医師が巻き込まれないようにする上で重要になると思われます。

 

制度について会社の説明不足、本人の理解不足

私は、高ストレス者面談を始める前に、労働者の方に対し、制度の説明と面談後の流れ(企業との情報共有や、就業制限の可能性等)を必ず説明します。なぜなら、厚労省ストレスチェックマニュアルに以下の記載等があるからです。

 

――――

面接指導を行う医師は、面接指導の結果、事業者に意見を述べる必要があります。ここに至るまでに、その旨は既に労働者に説明がなされていますが、面接指導開始時にもあらためて、面接指導制度の仕組みを説明し、対象者の理解を確認しておきましょう。

――――

 

すると、意外にも、企業の説明不足なのか、本人の理解不足なのかはわかりませんが、

「そんなの知らなかった」
「面談の結果が会社に伝わるのは嫌だ」
「就業制限になったら、たまったもんじゃない」

と仰る方が、結構いらっしゃいます。
不利益取り扱いは禁止されているのですよと伝えても「絶対にないと保障できるのか?」と切り返されると、反論のしようがありません。なぜなら、不利益取り扱いの可能性が否定できないがゆえに、わざわざ法律で禁止されているのですから…。
「先生は医師免許を持っているから安泰だが、我々は違うんだよ」と、逆にお叱りを受けたケースもありました。

 

そのような方々には、厚労省ストレスチェックQ&Aに

『(会社への情報提供について)事前に了解が得られない場は、法に基づく面接指導は事業者に結果が伝わる仕組みである旨を説明し、本人の了解を得た上で、法に基づく面接指導としてではなく、事業者に伝えないことを前提に、通常の産業保健活動における相談対応として実施することも考えられます。』

とありますので、ストレスチェック制度上の面接希望の申し出を取り下げ、通常の産業医面談に切り替えることもできると説明します。

 

すると、今シーズンの私の経験だけで、多数の高ストレス者の方が面接希望の申し出を取り下げられました。

 

説明なしでの面談は、トラブルのもと

この方がたに、説明なしで面談を実行し企業に面談報告書を提出していたら、トラブルになっていた可能性があったのではないかと思います。「産業医のせいで、会社から残業制限をかけられた」「情報が会社に伝わって、出世に響いた」等と言われかねません。

 

もちろん、面接医師としては、面談結果を会社に情報提供する等は法令にのっとった適切な対応であり、本人が制度の流れを理解せずに高ストレス者面談を希望してきたのは、説明不足の会社又は会社の説明を十分聞いていない本人のせいです。
しかし、トラブル防止のためにも、厚生労働省のストレスチェックマニュアルにもある通り、面接開始前に本人に制度の説明を行った方が良いと言えるでしょう。

なお、このようなトラブル防止のために、面接申出時に本人からしっかりと同意書を取っている企業もある(むしろその方が多い?)ので、同意書の有無を確認するのも重要です。

 

労働者のキャリアと産業医

2016-12-16

キャリアコンサルタント資格とは

皆様は、キャリアコンサルタントという資格が存在することはご存知でしょうか?

キャリアコンサルティングとは、「興味・適性の明確化や職業生活の振り返りを通じて、職業生活設計の支援や職業の選択、スキルアップについて、意欲の向上を促し、自己決定を後押しする支援」のことを言い、これを行う人のことをキャリアコンサルタントと呼びます。

今年4月より、キャリアコンサルタントが国家資格化されました。

弊社代表産業医(山崎)は、先日行われた第1回キャリアコンサルタント試験に合格し、キャリアコンサルタントとして名簿登録を受けましたのでご報告致します。

 

労働者のキャリアと悩み

一昔前と比べ、現在の日本社会においては、労働者が自らのキャリアについて考え、悩むことが多くなっているのではないでしょうか? 

あくまで一般論でしかありませんが、一昔前には、新卒で入社し定年退職するまでの間、時には興味・経験のない部署への異動を命じられ、時には地方への転勤も命じられ、長時間残業で家族との時間が少ないとしても、それらを甘受し、一つの会社で定年まで勤めあげることが一般的でした。ほとんどの人が、それが普通であり、自分にはそれしか道がないのだと思っていたのです。また専業主婦家庭が多かったこともあり、そのような夫の働き方が可能でもありました。 

それに対して、現在の若者は、各種調査でも明らかになっていますが、「仕事のやりがい」や「仕事の意味」を重視する傾向があります。また、共働き家庭も増え、仕事とプライベートの両立を重視する傾向も、年々強まっています

また、転職市場も拡大し、インターネットを通じて様々な情報を得ることができるようになり、「隣の芝生は青い」ならぬ「自分にはもっと合った仕事がある」「この仕事では自分の能力は生かせない」と感じる労働者も増えているのではないでしょうか。

 

産業医面談の中で感じるキャリアに関する悩み

産業医としてメンタル不調になってしまった労働者の方々と面談する機会も多数頂いておりますが、メンタル不調に至った原因として、キャリアに関することが一因となっているケースも多々見受けられます。

以下、ほんの一例ですが、

 

入社直後~数年:

入社前に自分が思い描いていた仕事内容と、実際の内容が大きく違い、やりがいを感じられない。

 

部下を持つようになったタイミング:

自分は、部下のマネジメントができるタイプの人間ではない。役職を外してもらって、あくまで一プレイヤーとして働きたい。

 

子育て期:

毎日毎日深夜まで残業で、子どもと過ごせる時間がない。もっと家庭を大事にしたい。

仕事が忙しく、家事がほとんどできていない。子どもに申し訳ない。

 

中年期:

今まで自分が築いていたキャリアと全く違う分野へ異動となった。会社は自分を辞めさせたいのか?嫌がらせか?

 

50~60代:

親の介護や、自身の病気と、仕事の両立に関する悩み。

 

というような悩みはよく聞かれます。

 

企業によっても傾向に違いがあり、例えば公務員であれば、おそらく民間との癒着防止等の意味合いもあるのでしょうが全く異なる分野への異動というのが結構あり、地位だけ高くて知識・経験が少ない状態に陥り、経験豊富な部下とのコミュニケーションや指導に悩むといったケースが散見されます。

また、歴史のある企業においては、社員の高齢化が進んでおり、自身の病気や親の介護の問題が多く、新興のIT企業等ではそのような病気や介護の問題は少なく、自身のスキルと会社から求められるスキルのミスマッチ(業界自体の変化のスピードが速いため、労働者に求められるものも次々と変化しやすい)が多いように感じます。

 

産業医としてできること

産業医と面談することで、このような悩みが解決するわけではありませんし、私自身解決できる能力があるとも思っていません(時には、労働者と企業の間に立って話を調整し、解決に至ることもありますが…)。 

ただ、キャリア理論に関する知識が全くのゼロよりかは、多少なりとも持ち合わせていた方が、より充実した産業医面談ができるのではないかと考え、今回の国家資格取得に至りました。例えば、「この人が大切にしている価値観はなんなのだろう」「この人のキャリア・アンカーは何だろう」と考えながら産業医面談を行えば、多少は意味のある面談ができるかも知れません。

 

今後も、今回の資格取得の際に学習した内容や経験を活かし、労働者の方々や企業のお役に立てる産業医活動を行っていきたいと考えています。

【産業医が予想!】職場巡視頻度が2か月に1回で良くなったら

2016-11-15

検討委員会の報告書案

昨年の秋から今年の秋にかけて、産業医の在り方に関する検討委員会というものが厚生労働省で開催されました。

近年、ストレスチェックが法制化され、長時間労働による健康障害が社会問題化するなど、労働安全衛生法が制定された当時とは社会状況が大きく変化しており、産業医の在り方も時代に合わせて変化する必要があるのではないかとの観点から、様々な事項が検討されています。

つまり、製造業等が産業の中心であった時代には、機械による怪我、有害物質による健康障害等への対応が産業医の主な業務であったのに対し、近年では第三次産業の割合が増加し、オフィスワーカーに対してはそのような怪我や有害業務よりも、長時間労働による心身への負担やメンタルヘルスの問題への対応が多くの割合を占めるようになっています。

 

この検討会の報告書案が、厚生労働省のホームページに、数日前にアップされました。(あくまで「案」ですので、今後修正され、最終報告書ができるのだと思います。)

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追記)
12月26日に最終報告書が厚生労働省から公表されましたが、報告書案からの大きな変更はありませんでした。今後、省令を改正し、2017年6月からの施行を目指すとのことです。厚労省の省令改正案はこちらです。
以下の本記事は、新たに発表された省令改正案に基づいたものではなく、報告書の段階の内容に基づいたものになりますのでご注意ください。
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追記)
2017年3月13日、労働政策審議会の答申で、省令改正が妥当との結論が出ました。
これにより、2017年6月からの改正がほぼ確実になりました。(→その後正式に、官報にて公布されました)
最終的・具体的な改正案はこちらの厚労省HPをご覧下さい。

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ごく簡単にまとめると、以下のような項目が報告書には書かれています。 

・事業場によって業務内容は変わるので、それに応じた労働衛生管理を行いましょう。

・産業医活動に必要な情報を、企業は産業医に提供しましょう。

・産業医だけではなく、保健師等も含めたチームによる支援を強化しましょう。

・産業医のいない50名未満の小規模事業場では、健診事後措置が法的義務であるのにあまり行われていない等の実態があるので、是正・強化しましょう。

など…

 

どれも、現在の産業保健の分野での課題を改善するために必要な項目であると、私自身感じます。しかし、ただ1点、もしかすると職場の労働衛生の後退につながるのではないかと感じたのは、以下の点です。 

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産業医の職場巡視の頻度を、事業者の同意を条件として、毎月1回以上から2 月以内に1 回以上とすることが適当である。

―――― 

これについて、以下詳しく見てみましょう。

 

オフィスの職場巡視は意味があるの?

そもそも、なぜこのように職場巡視の頻度を下げても良いのではないかという議論が出てきたかというと、つまるところ、有害業務のほとんどないオフィスを毎月巡視して意味があるのか、その時間がもったいないのではないか、浮いた時間で長時間労働者への面談等を手厚くできるのではないか、労働者の作業環境を把握するには巡視以外の方法もあるのではないか等の理由からです。 

上記の通り、製造業等が中心の時代には、工場や現場の作業環境は日々刻々と変わる(労働者自身の行動が危険に繋がることもある)ため、産業医が毎月巡視して、労働衛生上問題のある点を指摘し、また同時に、労働者の作業環境を産業医が知ることは意味のある事だと言えます(現在でも、製造業等においては産業医のみならず、様々な人が、連日頻繁にパトロールを行い怪我等を防いでいます)。

一方、オフィスにおいては、化学物質等の有害業務が存在し、作業環境が刻々と変わるようなことは少なく、怪我や重篤な健康障害や死亡につながることはまれだと言えます(あくまで製造業等と比較すればですが…)。 

私自身、産業医として多くのオフィスを巡視していますが、初回の巡視時には指摘事項がたくさんあったり、季節の変わり目等にはチェック事項が多かったり(この季節なら、インフルエンザ対策ができているか等)しますが、毎月巡視していると新たな指摘事項がなくなってきて、健診チェックや従業員への面談に時間をとるために、巡視は10分以内で切り上げることもあります。
ただ、月1回の巡視は法的義務ですので、時間がないからといって省略することはありません。たとえ数分であっても必ず行うようにしています。

 

このような事情から、巡視頻度を減らしても良いのではないかとの議論が出てきたのです。
 

2月に1回に職場巡視を減らすための条件

職場巡視には、労働者の作業環境・労働環境を知るという意味合いもありますので、2月に1回に減らした分をカバーするため、会社は産業医に以下の情報を提供するように、報告書は提案しています。

・長時間労働者面接の対象者や労働時間

・週1回以上の衛生管理者の巡視記録

・その他、必要な事項 

なお、産業医の判断のみでは2月に1回にはできず、事業者の同意が必要になりますが、その同意は衛生委員会で調査審議する必要があるとしています。

~~~
2017年3月13日追記)
最終的な改正案では、衛生委員会での調査審議は法令上は求められておらず、「所定の情報の産業医への提供」+「事業者の同意」のみが必要とされています。
~~~
 追記)
2017年3月31日付通達が発表され、上記の事業者の同意は、衛生委員会で調査審議したうえで行うこととされました。法令ではなく、通達レベルでの規定となりました。
また、この通達には、衛生管理者の巡視記録に含まれるべき事項等の記載もあり、要チェックです。

 

2月に1回にするとどうなるのか予想

検討会においては、巡視頻度を少なくしても大丈夫なのかという声も出ていました。以下、公開されている議事録から、ピックアップしてみます。

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(第五回議事録より)

竹田委員:

頻度を緩めてもいいという言葉自体が誤解を招くと思いますので、そこを私は言っています。事業場の必要に応じた、あるいはリスクに応じた頻度で巡視をするのであればわかるのですけれども、あくまでそこで緩めるという言葉を使われると、やらなくていいという方向の話にしか聞き取れないので、それを改めて言わせていただきます。

・職場巡視の議論とともに、事業場に訪問する頻度の話が、職場巡視のほうで頻度を減らし、もしテレビ電話で衛生委員会に出られたら、事業場に行かない産業医が出てきてしまうのではないかという危惧があるので、(中略)、事業場との距離あるいは事業場との訪問に関しての何らかのルール化も必要かなと感じました。

(赤字部分については弊社が強調)

――――――――― 

この竹田先生の御発言を見たとき、まさにその通りだと思いました。

事業場の訪問に関しての何らかのルール化も必要」であり、さもなければ過去のこちらの記事にも書いていますが、2月に1度しか事業場を訪問しない産業医が出てくることが容易に想像できます。

現時点でも、毎月訪問しない産業医はいるものの、それは違法な事であり労基署による是正勧告の対象とすることができますが、今後もし「産業医の職場巡視が2月に1回でOK」かつ「産業医の事業場訪問のルールも特になし」となると、2月に1度だけ訪問していれば適法となるのです。(月1回の衛生委員会に産業医が出席するよう徹底を求める通達はありますが、通達であり法令ではありません。)

 

報告書案に書かれなかった事項・書かれた事項

今回の報告書には、「産業医の事業場訪問のルール」は特に書かれませんでした。おそらく、検討会の委員の方々は、巡視頻度を下げても、職場訪問自体は月1回というのが暗黙の了解で存在するのだと思いますが、日常的に多くの企業とやり取りしている私の感覚からすれば、しっかり労働衛生管理をしていこうと思っている企業は月1回を続けるでしょうが、コスト面から2月に1回の産業医訪問に変えたいと考える企業が多数生じると思います。(現状でも、コスト削減のため名義貸しの産業医を雇い、それに応じている医師や医師会も存在します。)

 

「衛生委員会があるからどちらにせよ月1回は訪問するのではないか」と言われるかも知れません。しかし、法令上、産業医は衛生委員会の構成員であるものの、産業医の出席がなければ衛生委員会が開催できないというわけではありません。なぜなら、衛生委員会が成立するための要件は安衛法では定められておらず、衛生委員会自身でその成立のための要件を決めることができるとされているからです(昭63・9・16基発第601号の1 :【産業医の出席を衛生委員会又は安全衛生委員会の開催要件とするか否かは、労働安全衛生規則第23条第2項の「委員会の運営について必要な事項」に該当するものであり、したがって各委員会が定める事項であること。】)

 

実際、昨年公表された日本医師会による産業医アンケートでも、年12回(毎月)以上衛生委員会に参加していると答えた産業医は、2017人中623人で約30%しか存在しません

 

また、巡視頻度を減らすには、産業医の判断のみでは不可能であり、衛生委員会で検討し事業者が同意することを要するとして一定の歯止めをかけているようですが、会社・産業医が2月に1回としたいと言っているのに、それに対して労働者側の委員が抗うことはほぼ不可能(もちろん組合が強い企業等ではできるでしょうか)ですので、実質、会社と産業医の判断のみで決まるといっても過言ではないでしょう。そもそも、衛生委員会をしっかり開催して労使が対等に活発に議論している企業は、どれほどあるのでしょうか?

報告書では、国等が指導するとありますが、電通事件に見られるように明確な36協定違反があっても労基署は十分取り締まれていないのに、衛生委員会までしっかりチェックして指導できるはずがありません。この歯止めの実効性は、個人的にはかなり疑問です。

つまり、以上をまとめると、
国は、産業医が長時間労働者やストレスチェック後の高ストレス者との面談にさく時間を増加させることを意図して巡視頻度を2か月に1回に縮小しても良いとしたものの、職場訪問頻度に関する法的ルールがないため、「2か月に1回、職場に来る産業医」でも適法になり、コスト面からそれを求める企業が増え、逆に労働者が産業医面談を受ける機会が減少することになる危惧があるのではないかと感じます。

 

2月に1回の産業医活動のニーズが確実に高まる

現時点では法令に定められているので月1回の産業医業務を依頼しているが、今後、2月に1回でも適法となれば、コスト削減のためにも『2月に1回の訪問でもOKと言ってくれる産業医』『2月に1回の訪問で、その分安い産業医』に切り替えようとする企業は、数多く出てくるものと思われます。

私の事務所にも、「毎月の訪問は結構ですので、安くしてもらえませんか」との問い合わせがしばしば来ますし、それに対して、毎月の訪問を産業医にさせるのが企業の義務なのですよと私が説明すると、「では、こんなことをお願いするのも何ですが、名義貸しをしてくれる産業医を紹介してもらえませんか?」を言われたこともあります。(名義貸しに応じてくれる産業医派遣会社も知っていますが、さすがにご紹介は差し控えさせて頂いています。)

それくらい、中小企業にとってコスト面は切実な問題なのです。特に、利益に直結しない労働衛生に関するコストはなおさらです。

 

私自身、従業員の方々への健康支援をしっかり行うには月1回の訪問を続けたいと思っていますが、世の中の企業ニーズ・趨勢が2月に1回訪問する産業医を求めるものになった場合、その趨勢に抗って月1回訪問のスタイルを続けることができるのか、今から不安を感じます。
「2か月に1回の訪問で良いから、その分安くしてくれ」、「毎月職場訪問するなら、御社との契約は打ち切り、2か月に1回でもOKと言ってくれる産業医に変更する」と言われてしまわないか心配です。

省令が改正されたとしても、毎月来てほしいと企業から言われる産業医になれるよう努力していかなければと思いますが、その一方で、2か月に1回訪問でその分リーズナブルな契約形態を検討する必要に迫られる時が来るかもしれないと思う今日この頃です。
 
 
 
最後にご注意:
上述のように、本改正の趣旨は、巡視よりも面談等に割り振る時間を多くし、より産業医活動を実のあるものにするためのものであって、厚労省の検討委員会の偉い先生方も月1回の産業医訪問が大前提とお考えのようです。
その趣旨に反するような、2か月に1回の訪問に変更して果たして本当に適法なのか、労基署等から注意を受けないのかは、確実なことは言えません。あくまで本記事は私見に過ぎません。
もう少し時間が経って、正式に省令が公布されたら、労基署等へ問い合わせてみようとも考えています。

4月12日追記)

省令改正が正式に官報で公布されましたので、当HPの人気記事である「衛生委員会の最低人数」の際にもお世話になった労働基準監督署へ、問い合わせをしました。

すると、担当者の方がわざわざ調べて下さり折り返しのご連絡を頂き、以下の趣旨の回答を頂きました。

・現在は、「産業医が月1回の職場訪問をしていない=必然的に月1回の職場巡視もやっていない」となるので法令違反であると言えるが、省令改正後は、2か月に1回職場を訪問をして、その際に職場巡視をすれば、それは違法であるとは言えない

・ただし、今回の省令改正の趣旨は、職場巡視を減らした時間を、従業員との面談等に回し、より充実した産業医活動とする点にある。よって、産業医の職場訪問を2か月に1回に減らし、労働者の面談機会が減ったり産業医活動が後退することがあれば趣旨に反するので、産業医と事業者でよく話し合って決めて頂きたい。そのようなことにならないよう、産業医から企業へ説明し理解を促して頂きたい。
   
⇒結局、産業医が2か月に1回だけ職場を訪問し活動することは、「違法ではないものの、法改正の趣旨から言って、産業医活動が後退するようなことになれば不適切である。」といったところでしょうか。
   
ただ予想通り違法ではないことは分かりましたので、今後、産業医業界としてどうなっていくのか、注目されるところです。

電通の過労死・過労自殺と社長メッセージに産業医が思うこと

2016-10-18

痛ましい事件

去る10月7日、電通の24歳の女性社員の方が過労自殺をされ、労災認定されたことが大きく報道されました。

この女性、そしてご両親・ご家族の無念を思うと、本当にいたたまれない気持ちになります。

私にもまだ小さな娘がいます。この娘が大きくなって、過労自殺してしまったと想像すると、胸が張り裂けそうになります。

この女性は、東京大学を卒業され、さらには電通の入社試験も勝ち抜いた非常に優秀な、ご両親にとって自慢の娘であったろうと思います。そのような娘を失ったご両親の悲しみの深さは、想像もつきません。

 

過労自殺(含未遂)は労災認定されたものだけでも、年間100件ほど生じています。労災申請していないケース等も含めると、さらに多くなるでしょう。

このような悲しい事件が繰り返されないよう、産業医として何ができるのか、改めて考えさせられます。

 

経営層の意識

この電通の事件に関連し、ある大学教授がSNSで『月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。』と発言し炎上しています。

炎上してしまい、教授は慌てて、以下の内容を含む謝罪文を投稿しました。

『とてもつらい長時間労働を乗り切らないと、会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断し、その働き方が今の時代に適合かの考慮が欠けていました。』

 

教授の所属する大学側が急きょ教授の発言を非難する声明を発表したように、不適切な発言だとは思いますが、「つらい時期を乗り越えることで、仕事上成長することもある」というのも一部事実としてありうるのかもしれません。
おそらく、経験を積んだビジネスパーソンの多くはそれに同意するでしょうし、私自身研修医の時には200時間/月以上の時間外勤務をしていた時期もありました(これでも、私はどちらかと言うと自分のプライベート時間も重視するタイプの研修医でした。普通の研修医、忙しい医者は、これ以上の時間外労働をしてることも多いです)。

この教授は、日本を代表する大企業で、経営層として実績を残されてきた優秀な方ですので、プロとしてハードワークするのが当然との意見なのだと思います。

どのような意見を持つか、表現するかは個人の自由であり、保障されるべきものと思います。しかし、自分自身の考え・信念・信条とは別に、以下の事実も頭に入れておかなければなりません。

 

経営者と労働者は、立場が天と地ほど違う。

・経営者は何時間残業しても、なんら法律上問題ないが(そもそも残業という概念がない)、非管理監督者の労働者に時間外労働をさせることは『刑事責任を問われる違法行為』であり、36協定を結んでも上限があり、それを超えると違法である。

 

教授は、自分の過去の経験が今の時代に適合しないのにこのような発言をしたことを謝罪されています。
しかし個人的には、時代に適合するかどうかの以前に、違法行為がベースにあって、国も労災と判断しているのに、「情けない」と言ってしまうのが不適切なのではないかと感じます。

もしかすると、この教授は、100時間超の残業をやらせることは違法であるという認識が低かったのかもしれません。

人の顔面を殴るという違法行為(傷害罪)の被害者に対し、「遅いパンチなのに避けられず、打ちどころが悪く死ぬとは情けない」「自分が若い頃は、軽いフットワークで身をかわした」とは普通の感覚を持つ人間であれば言わないように、36協定の上限を超えて残業させることが違法行為であることを強く認識していれば、「100時間で過労死するとは情けない」という発言には至らないように思います。

(なお、報道によると、電通の36協定は、法定外上限50時間/月、特別条項での延長最高50時間/月とのことですが、もしそれが事実であれば法定外100時間超の残業は違法ということになります。また、労働時間を過少申告するよう労働者に指示していたと疑われるとの報道もありますが、仮に事実であれば、かなり悪質と言えます。)

欧米のエリート・ノンエリート区分とは違い、日本の大企業の経営層の多くは、労働者の中から競争を勝ち抜いて選抜されてきた方々ですので、自分の労働者時代の当たり前を一般社員に押し付けてしまう傾向があるのかもしれません。

経営者の常識・当たり前を、労働者に押し付けることはできないと、意識すべきです。(私自身経営者ですので、自戒の意味も込めて。)

 

過重労働をなくすためには

長時間労働を減らしていくための方法は、大きく以下の2つに分けられるように思います。

 

①企業が自発的に削減する

➁国が厳しく監督する

 

一部メットメディアにおいて、17日に発せられた電通社長の社員向けメッセージが報道されています。そこにはこのように書かれています。

 

~~~~~~~~~~~

企業と社員が持続的に成長し続けるためには、業績だけではなく、日々仕事に取り組む社員が、健全な心身を保ち続けていることが、その企業の根幹において成立していないといけない。

~~~~~~~~~~~

 

これは①に当たります。

近年、「健康経営」という言葉が広がりを見せています(「健康経営 ®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です)。しかし、日本に存在する経営者の全てがこのような意識を持つようになるのはかなり難しいでしょう。
電通という日本最大手の広告代理店ですら、事件が起こったのち、後手になって改善に着手しようとするのですから…。

多くの中小企業にとっては、業界で生き残ること・利益を出すことが最優先であるため、「違法であろうと何であろうと、やらざるを得ない」「残業を削って、競争力が落ちると困る」との考えから、社員の健康はどうしても後回しになってしまう実情があるように思われます。

 

社長メッセージには以下の記述もあります。

~~~~~~~~~~~

・東京における臨検監督には「過重労働撲滅特別対策班」も参画したことは、当社の労働環境に対する当局の関心の高さの表われであり、社はその事実を極めて厳粛に受け止めています。

・行政指導である是正勧告にとどまらず、法人としての当社が書類送検されることも十分に考えられる。

・これまで当社が是認してきた「働き方」は、当局をはじめとするステークホルダーから受容され得ない。

~~~~~~~~~~~

 

これは➁が、長時間労働削減の契機になっているものと言えます。

『当局をはじめとするステークホルダー』というのは誰なのか具体的には書かれていませんが、株主、取引先、労働者自身、そして労働者の家族などが考えられます。

電通に限らず、長時間労働というものは、日本の雇用と密接に関連した根深い問題です(ぜひ日本の雇用慣行に関するこちらの記事も参照下さい)。

「働き方改革」として、国は様々な施策を実施していますが、それをさらに加速させることが望まれます。
特に、労働者が健康を保持し安心して働けるようにするため、『違法行為、違法状態』に対しては、労働基準監督官を増員する等して、厳しく取り締まる必要があるのではないでしょうか。

管理監督者の負担増について

最後に一点。

電通は、36協定の見直しを発表しています。これが本当に遵守されるなら、一般労働者の時間外勤務は減るでしょう。

その一方で懸念するのは、「管理監督者の負担が増大するのではないか」ということです。

管理監督者にとっては、36協定は関係ありません。残業をさせても労基法上、刑事責任を問われることはありません(民事上の安全配慮義務違反はありますが…)。

仕事量が同じであれば、一般労働者が36協定遵守によりできなくなった仕事を、管理監督者が肩代わりしなければならなくなることも考えられます(又は派遣社員増員、下請への転嫁で対応する等)。

報道されている電通の改善策は、違法状態の改善(36協定の遵守)と、36協定の時間を労災認定の目安の45時間・80時間を意識したものに変えることが含まれているようですが、管理監督者へのフォローも併せてしっかり行って欲しいと思います。

読者の皆さんお気づきの通り、36協定違反回避のための『名ばかり管理職』の問題、上述の労働力のバッファーとしての派遣・非正規の存在、下請多重構造等、日本の労働問題は色々とややこしいことが複雑に絡み合っているのです。
違法な長時間労働を取り締まることは必要ですが、それはあくまで対症療法にすぎず、本当に改善するには、将に『働きかた改革』と言えるくらいの『改革的』な変化が必要なのかもしれません。

私が労基署から注意・指導を受けてしまった件

2016-09-28

お恥ずかしながら、私が行っている産業医業務について、労基署から注意を受けてしまいました。(私が直接ではなく、事務担当の方が、監督官から口頭で指摘されました。違法ではないので是正勧告ではありませんが、改善するように言われたとのことです。)

 

健康診断結果の有所見者に対する医師意見に関してなのですが、皆さんの他山の石にして頂ければと思い、恥を忍んで公表することに致します。

 

なにがまずかったのか

健診の結果、異常所見がある場合には、健康保持のために必要な措置に関して健診日から3か月以内に、会社は医師から意見を聴取しなければなりません。

そして、安衛則51条の2第2項には『聴取した医師又は歯科医師の意見を健康診断個人票に記載すること。』とあります。

 

それに従い、私は個人票に
================

通常勤務可

産業医 山崎健太 印
================

 

等と記入していたのですが、それだけでは不十分であると指摘されました。
 

意見を述べた日付を記載しなければ不十分

何が不十分かというと、『医師が意見を述べた日付が書かれていない』というのです。

 

法令には、『医師の意見を健康診断個人票に記載すること』としか書かれておらず、日付まで書けとはどこにも書いてないじゃないかと反論したくなりましたが、お上に逆らってはいけませんので、早急に日付スタンプを購入して今後は押すことにします。 

私自身は、もちろん法令に従い3か月以内に意見を述べていますが、労基署からすると、「日付記載がなければ、その証拠はないじゃないか。本当は3か月過ぎてから意見を言っているんじゃないの?」ということなのでしょう。そのお疑いももっともですので、今後は日付も記載するようにします。

実際に、他の産業医の先生が日付も記入されている例も見たことがありますので、良い機会だと捉え改善したいと思います。

 

労基署の目は厳しくなっている

最近の労基署は、こんな細部まで見て指導するようになったのだと思い、感心しました。身が引き締まる思いです。

世の中には、医師の意見聴取をしていない事業場が、特に50人未満の事業場を始めとして、山ほど存在すると思われます。これは、日付を記載していないのとは違って、明確に違法ですので、労基署の方々にはどんどんと是正勧告し改善されていくことを期待しています。

 

産業医業務をしていて最近特に感じますが、長時間労働による健康障害防止等に関して、労基署の目はどんどん厳しくなっています。

違法な事態は避けるのは当然のこととして、さらに一歩進んだ対策が求められつつあります。

ついに判明!?衛生委員会構成の最少人数・最低人数

2016-09-06

ストレスチェックをきっかけに衛生委員会を見直す企業が増えた

こちらの記事にもストレスチェックにおける衛生委員会の重要性を記載しました。ストレスチェックにおいては衛生委員会での調査・審議を経ないと何も始まらないため、ストレスチェック導入をきっかけにして、多くの企業様において「衛生委員会をしっかり毎月開催しなくてはいけない。これを機会に、法令通り毎月実施していこう。」という意識が高まっています。

弊社の産業医サービスでは、そのような声にお応えし、衛生委員会の立ち上げから、毎月の委員会での情報提供まで支援させて頂いております。

そんななか、企業様から衛生委員会について以下の質問を受けることが大変多くなっています。

 

「衛生委員会のメンバーはどうすればよいか。何人以上必要なのか。ネットや本で調べたけど、諸説あって結局どれが本当かわからない。」

 

私が以前、専属産業医として勤務していた企業の衛生委員会は、オブザーバーも含めたら多い時には30人くらい出席者がいましたが、一方で従業員数50人くらいで人員もギリギリで回している小さな企業にしてみれば、衛生委員会にどれくらい人手を取られるのかは切実な問題でもあったりするため、最少人数を知りたいという要望が出てきます。

 

まず、法令を確認

衛生委員会の委員については、法律上、以下のように定められています。

 

労働安全衛生法18条

衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員は、一人とする。

  ① 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者(←いわゆる議長)

  ➁衛生管理者のうちから事業者が指名した者

  ③産業医のうちから事業者が指名した者

  ④当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者

①の委員以外の委員の半数については、過半数労働組合、過半数労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名しなければならない。
 

ネット上には諸説飛び交う

インターネットや本で、衛生委員会を開催するために必要な人数について調べると、最少人数は5人という説と、7人という説があり、各専門家の意見が一致していません。

 

7人説によると、➁~④各1人計3人を会社側の意思に基づきが指名し、それとバランスを取るために労働組合(又は過半数代表労働者。以下、労働組合等とします)推薦の人を3人入れ、3人+3人+議長で、計7人が最少人数としています。

 

5人説によると、➁、③の計2人が会社側の意思に基づき指名され、それとのバランスをとるため労働組合等推薦を2人入れ、2人+2人+議長で計5人必要としています。

あえて他の可能性についても考えてみる

なんとなく、5人説が説得力があるような気がします。しかし、そこで思考停止せず、さらにもう一歩進めて、他の可能性についても考えてみましょう。

どちらの説においても、産業医及び衛生管理者を会社側としてカウントし、労働者側としてはカウントできないことが前提となっていますが、本当にそうなのでしょうか?そのようなことは法令のどこにも書かれていないですし、私の知る限り通達もありません。

産業医については、専属産業医の場合を除いて日本企業の圧倒的多数において、会社の外部の医者から会社が選んできて契約するあくまで部外者的人間ですので、会社側が選んできた人間としてとして会社側にカウントされるのはわかるような気がします(労働組合が産業医を選んできたというのは、あまり聞いたことがありませんし、専属産業医だとしてもその企業の労働組合員である産業医というのも聞いたことがありません)。

一方、衛生管理者は、その企業の労働組合員である場合もありますが、絶対会社側にカウントしなければならないのでしょうか?実際私自身、その企業の労働組合活動をしている衛生管理者の方に会ったこともあります。
労働組合としても、組合員である衛生管理者を衛生委員会の構成メンバーにしたい場合もあると思われますが、そのような場合でも推薦できないとすれば理不尽のようにも思えます。

そこで、もし衛生管理者を労働組合等が委員として推薦することが可能であれば、最少人数は4人(議長、産業医(会社側)、衛生管理者(労働組合等推薦)、衛生の経験ある労働者(労働組合等推薦))でいけるのではないでしょうか?
(なお、この場合、会社側1名、労働者側2名となりますが、これは問題ありません。法令上の「半数」とは、労使同数という意味ではなく、労働者側が少なくとも半数含まれる必要があるという意味であり労働者側の方が多くても大丈夫だという通達があります(平成17年1月26日付 基安計発第0126002号))

 

さらにいうと、もし衛生管理者が④の「衛生に関する経験を有する労働者」を兼ねることができるとすれば、衛生委員会の最少人数は3人(議長、産業医(会社側)、衛生管理者(労働組合等推薦。④も兼ねる))でもOKとなる可能性も出てくるのではないでしょうか。
ただ、条文上、➁と④を別個に規定しているので、別々の人間を立てる必要があると考えるのが普通であり、この解釈は少し無理筋かもしれません。

 

自分だけで考えていても埒があかないので、労働基準監督署に問い合わせてみました。

 

労基署に電話で問い合せてみた

労基署「はい、○○中央労働基準監督署、安全衛生課です。」

 

山崎「衛生委員会の構成メンバーについてお聞きしたいのですが。」

 

労基署「はい、どのようなことでしょうか。」

 

山崎「安衛法18条2項において、2号の衛生管理者が4号の「衛生に関し経験を有する労働者」を兼ねることはできるのでしょうか?」

 

労基署「特に、兼ねてはいけないという規定はありませんので、兼ねることができます。」

 

山崎「では、衛生管理者が、労働組合や過半数代表労働者の推薦を得た場合、議長と産業医と労働組合推薦の衛生管理者の計3名で、衛生委員会を行っても良いということでしょうか。衛生委員会の最低人数は3人になるのですか?」

 

労基署「はい、そういうことになりますね。」

 

なんと、私の中で長年疑問であった衛生委員会の最少人数が、3名でもOKなことが判明しました。「3人なんてダメに決まってるじゃないですか」と労基署に言われると思っていましたので、これには少し驚きました。

 

ただ、注意が必要なのは、上記は労基署が書面で正式に回答したものではなく、電話相談窓口に出た労基署の方が口頭で回答して下さったものなので、この解釈が法的に100%正解かどうかはわかりません。

また、衛生委員会を開催する目的は、職場の労働衛生環境を改善することにあり、なるべく幅広い多くの部署から参加してもらい、意見を交換することが重要な点は忘れてはいけないように思います。最少人数が3人であるからと言って、3人にするのではなく、なるべく多くの労働者の意見を適切に吸い上げられる体制を構築しましょう

 

追記)

衛生委員会のメンバーの推薦に関しては、こちらの記事もご覧ください。

 

受動喫煙防止と労働災害(特に化学物質過敏症)

2016-08-31

明日から労働衛生週間準備期間です

毎年10月1日~7日は全国労働衛生週間であり、9月はその準備月間となっています。

昭和25年から始まり今年で67回目となる歴史のある活動です。

 

毎年、重点事項は異なりますが、今年の重点事項としては以下の事項が挙げられています。

 

・ストレスチェック制度の確実な実施

・化学物質に関するリスクアセスメントの着実な実施

・受動喫煙防止対策の推進

 

このように重点事項の一つとして、ストレスチェック等と並んで「受動喫煙の防止」が挙げられています。

 

昨年6月から受動喫煙防止が努力義務に

労働安全衛生法が改正され、昨年6月からは職場における受動喫煙の防止が努力義務となっています。

様々な企業で産業医をさせて頂いていますが、オフィスワークを行う労働者にとっては、ビル内禁煙であったり敷地内禁煙であるケースがほとんどですので、受動喫煙がほぼ生じない環境になっていると言えるかもしれません(ただその場合でも、喫煙者の衣服や髪の毛についたタバコの煙による周囲への悪影響は無視できませんが)。

 

しかし、工場や建設現場においては、更衣室の側や皆が通る通路の側などでタバコを自由に吸える状況が残っており、非喫煙者がタバコの煙を吸ってしまう環境が残っているところも多く見受けられます。

 

受動喫煙と健康障害

タバコの煙には有害物質、発がん物質が含まれており、喫煙者は肺がんや脳梗塞・心筋梗塞等になりやすいことは広く知られています。それにも関わらず、タバコを吸い続ける方は、よく産業医面談でも仰ることが多いですが「タバコを止めるくらいなら、吸って早く死んでも本望。」との気持ちがあるのかも知れません。

しかし、たとえ本人が早く死んでも本望だとしても、タバコの煙(副流煙)で他人に迷惑をかけることは避けなければならないと言えるでしょう。

 

副流煙には、喫煙者本人が吸い込む煙よりも、高濃度の有害物質、発がん物質が含まれています。本日、大きく報道されていましたが、国立がん研究センターの研究によると受動喫煙をすることで、非喫煙者の日本人が肺がんになる可能性は約1.3倍に高まり、受動喫煙のリスク評価が「ほぼ確実」から、より明瞭な「確実」に変更されたとのことです。

 

受動喫煙と労働災害

このように、受動喫煙による健康障害は深刻ですが、癌にしろ心筋梗塞にしろ、副流煙を吸ってすぐになるものではありません。通常、数年という単位がかかるでしょう。他の要素(高血圧や肥満など)も絡んできます。ですので、労働災害との関係でいうと、「副流煙を吸ったから肺がん・心筋梗塞になった」等と労働者が主張し国が労災と認めるのはかなりハードルが高いと言えます。

 

一方、癌や心筋梗塞等とは違って、煙への暴露と症状・病気との関係をある程度主張しやすいものとして、化学物質過敏症があります。

化学物質過敏症については、病態、原因、治療法等について明確に確立されたものはないようですが、一般的には、微量の薬物や化学物質の暴露によって様々な健康被害が引き起こされるとする疾病概念を言います。

実際、化学物質過敏症により労災認定されたケース(広島高裁岡山支部判平23.3.31)も存在します。これは、トルエン、キシレン等の有機溶剤のケースですが、タバコの煙についても労災申請されたケースも存在します。

 

(つづく)

ストレスチェックと衛生委員会【産業医が法的視点から考える】

2016-08-17

皆様の企業においては、「(安全)衛生委員会」がしっかりと毎月開催されていますでしょうか?さらには、議事録を作成し労働者に周知していますでしょうか?

 

ストレスチェックとの関係で、衛生委員会は非常に重要です。

なぜなら、万一不幸にも、労働者の方がうつ病等になったり、最悪自殺等まで至ってしまった場合、ストレスチェックが義務となった今日、「ストレスチェックを法令に基づいて、しっかり行っていたのか。」「しっかり行っていれば、病気発症や自殺は防げたのではないか。」という点が、かならず問題になってきます。

その際、ストレスチェックをしっかり行っていたと言うためには、衛生委員会の法令に基づく開催が非常に重要になってくるのです。

 

そもそも衛生委員会とは

設置義務

業種によらず全ての業種において、事業場で常時使用する労働者が50人以上の場合は、毎月1回以上衛生委員会を開催する義務が発生します。

 

構成メンバー

法令上、以下のように委員を選任する必要があります。

1 総括安全衛生管理者又は事業 の実施を統括管理する者等(1 名)

2 衛生管理者

3 産業医

4 労働者(衛生に関する経験を有する者)

 

1以外の委員については、事業者が委員を指名することとされています。

そして注目すべきは、この内の半数については、『労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名』しなければなりません。

 

これにより衛生委員会が形式上、労使の双方が参加して、職場の衛生について調査・審議する場となるのです。

(メンバーを構成する上での、最低人数についてはこちらの記事もご参照下さい。)

 

議事録と周知義務

委員会における議事の概要を労働者に周知し、委員会における議事で重要なものに関しては議事録を作成し3年間保存する義務があります。

 

労使双方が参加して行われた委員会の内容が、委員会に参加しなかった一般の社員に対しても周知されることになります。

 

ストレスチェックと衛生委員会

社内においてストレスチェック体制を構築する際には、法律・指針・厚労省マニュアルに沿って行うことになりますが、「衛生委員会で調査審議し、労使で自由に決定する」となっている事項が多数存在することに気付かれたかと思います。

 

国が一方的に決めるのではなく、例えば、どのような調査票を利用するか、何点以上を高ストレス者にするかまでも、衛生委員会で調査審議し(法律の大枠はありますが)企業において自由に決定できるのです。

これはかなり特徴的なことです。一般の健康診断で、「血糖値の異常値は、○○以上にしよう」等と勝手に自由には決められないのに、ストレスチェックではそれができるのですから、不思議だと思いませんか?

 

なぜそこまで自由度が高いのか。その理由の一つは、ストレスチェックに関しては、十分な研究実績(エビデンス)が存在しないため、どのような調査票を用いるか等を国が企業に一方的に強制できないからです。国家権力が、企業に義務を課すには、それなりの科学的根拠が必要ですが、ストレスチェックに関してはそれが不十分なため、各企業で自由に決めて下さいとなっているのです。

 

しかし、まるっきり企業の自由で決めれるわけではありません。企業(使用者側)の自由に任せると、例えば、お金のかかる高ストレス者医師面接の対象者を極力減らしいと考えた経営者が、高ストレス者となる基準を著しく高く設定するような事態が発生してしまうかもしれません。

 

そこで、上述のように、労使の双方が参加し、委員の半数は労働者の過半数労働組合又は労働者の過半数代表者の推薦で指名されている衛生委員会で、調査審議して決定するように、一定の歯止めをかけているのです。

 

簡単にいうと、「ストレスチェックを受ける労働者側も自ら参加して、自ら決めた事項なのでOK」ということです。逆にいうと、労働者が参加し、労働者の意見が加味されていなければ、非常にまずい、経営層の独断と判断されかねないということになります。
 

おざなりな衛生委員会は、ストレスチェックとの関係では非常に危険

生じてはならないことですが、不幸にも、企業内で過労死・過労自殺が生じてしまったとします。その場合、ご遺族等から企業責任を問われることも十分に考えられることです。

 

その際、既に冒頭でも述べましたが、ストレスチェックが法制化されたのに伴い今後は、ご遺族・ご遺族側の代理人から、ストレスチェックをしっかり行っていたかどうか追及されることが考えられます。

例えば、「適切な質問項目を選択していたか」「高ストレス者の基準は適切か」「実施体制、フォロー体制はしっかり整っていたのか」等を追及されるでしょう。

 

その際、「衛生委員会を開催して、ストレスチェックに関わる事項を労使で調査・審議していたか」も問われるものと思われます。

なぜなら、繰り返しになりますが、衛生委員会に「労使双方」が参加し対等な立場で調査・審議するからこそ、質問紙の選択や高ストレス者の基準値等が正当性を持つと考えられるからです。

 

法律上の義務である衛生委員会をそもそも開催しておらず、企業が独断で質問紙を選択したり高ストレス者となる基準点数を決定していたり、また、衛生委員会は開催しているものの、参加メンバーなど上述の法定の要件を満たしていない場合には、ストレスチェックの実施自体に瑕疵があることになります
そのような瑕疵のある衛生委員会を行っていると、ご遺族等から、『法に基づき適切にストレスチェックを行っていれば、発病や自殺を防げたのではないか』と言われてしまうおそれもあるのです。

ストレスチェックを外部機関に委託し、確実に実施できる万全の体制を整えている企業様はたくさんおられますが、衛生委員会は当然のことながら外部委託できません。
衛生委員会を法定要件に従い確実に実施していない場合は、いくら外部機関に実施部分を確実に委託したところで、根本の部分で瑕疵があることになります。
外部機関の多くは、企業から委託を受けて検査を実施さえすれば良いと考えているところも多く、衛生委員会での調査・審議までしっかりと踏み込んで助言してくれるところは少数です(衛生委員会は企業内部のことなので、外部機関がそこまで口を出すべきではないとの考えもあるのでしょう)。

しっかりと衛生委員会を開催しなければ、ストレスチェックの関係においても、企業リスクにつながることになりますので注意して下さい。

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