ストレスチェック義務化への対応ポイント 高ストレス者対応編
ストレスチェック義務化が迫る
ストレスチェック制度の義務化まであと3日となりました。そうは言っても,来年の11月末までに1回検査をすればよい訳ですので,弊社が受け持っている企業様でもストレスチェックの体制を万全に仕上げている所はそれほどなく,そろそろ本格的に体制構築を検討していく段階の企業様も多い状況です。
そこで,今日と明後日の2回に分けて,弊社が考えるストレスチェック制度のポイントについて考えてみたいと思います。
今日のテーマは「リスク管理」で,2回目は「職場分析,職場改善」を予定しています。
「面接希望しない高ストレス者への対応」については、こちらの記事もご参考になさって下さい。
医師面接の対象となる人数はどれくらいか
厚生労働省が推奨する職業性ストレス簡易調査票と高ストレス者となる基準点数を利用した場合,高ストレス者と判定されるのは全体のおよそ10%と言われています。
しかし,その10%の人々が全員医師面接の対象になるのではなく,その中で,「私は医師の面接を受けたいです」と自ら会社に申し出た人だけが医師面接の対象になります。自ら申し出ると,基本的には自分の検査結果が企業に知られることになりますのでハードルが高いとも言え,高ストレス者のうち何%の人が自ら申し出るのかは実際にやってみないと分らない点があります。
事前の周知の仕方(会社が従業員へ,高ストレス者に該当した場合には是非とも医師面接をうけるよう強く勧める)や,労使関係のあり方(労使の信頼関係が深ければ,結果を知られても不利益は受けないと労働者が考え面接の申し出が増える)等によって影響を受けると思われますが,おおむね10%程度が手を挙げるのではないかと言われています。
つまり,「検査を受けた人の全体数」×「1%」程度が,医師面接の対象になると考えられます。500人規模の会社であれば,5人ほどが医師面接の対象になるということです。
2016年8月追記)
その後、弊社クライアント企業の実情や、大手ストレスチェック実施機関の話を総合すると、受検者全体の0.3~0.5%程度が医師面接に繋がっているようです。
やはり、自ら手を挙げて、自分の検査結果を会社に開示することはハードルが高いようです。
医師面接の対象者はどのような人か
ここで一つ考えて頂きたいのですが,会社に対し,「自分の検査結果を会社に知られても良いから,産業医・医師の面接を受けたいです」と自ら申し出る労働者は,どのような労働者でしょうか?
上記のように,企業が労働者に積極的に申し出るよう強く勧奨するケースもありますので一概には言えませんが,以下のような労働者が含まれるのではないでしょうか。
①うつ症状等が既に出ており,医者と相談したいと考えている人
②産業医や医師を通じて,会社に何らかの不満・希望を伝えたいと考えている人(業務への不満や,異動の希望など)
このような労働者が,医師面接の対象者に含まれるのは容易に想像できることかと思います。
もちろんそのほかに、なんとなく手を挙げた人も含まれるでしょうが…。
信頼でき,企業と適切に連携もできる面接医師を確保しているか
上記の①②の人たちへ対応するには,産業医として高いスキルが求められます。
しっかり対応できなければ,企業にとってもリスクが生じます。
①メンタルの症状がある人に対して
その人の症状を適切に評価し,それに応じて精神科・心療内科へ紹介し治療する必要があるのかどうかを判断しなければなりません。ここを間違え,不適切に放置してしまい仮にその後自殺などに繋がった場合,企業の責任が問われるリスクが生じます(面接で見抜けなかったことによる過失ではなく,その他の要素による安全配慮義務違反としてだとは思いますが)。
また,面接医師は,症状に応じた適切な就業配慮意見を事業者に提供しなければならない訳ですが,これも経験がないとかなり難しいでしょう。
さらに企業の担当者の方が忘れがちなのが,「この人たちへ医師面接が1回で済むか?」という問題です。
症状がある人へは,1か月後くらいには病状確認のため再度医師面談を組むのが普通です。1回だけ面接してそのまま放置すれば,安全配慮義務違反になるでしょう。つまり,継続的なフォローが必須になってきますので,その対応をどうするのかもしっかり考えなければなりません。
産業医にストレスチェックへの関わりを断られたため、医師面接を外部委託される企業もありますが、それで事態が解決する問題ではないのです。
なぜなら、1度面接した後の継続的フォローも必要になってくるからです。だからこそ厚生労働省は、産業医(=法的義務である月1回以上の職場訪問をし、継続的に企業と関わる医師)に医師面接をさせるのが望ましいとしているのです。
②会社へ不満・希望を伝えたいと考える人に対して
このような方々へ,ぞんざいに対応すると後々のトラブルにつながりますので,しっかり話を聞いてあげる必要があります。その一方で,「ストレスがあるから異動希望」というのを全て叶えていては会社が立ち行かなくなってしまいますので,そのあたりのバランスを取りながら面接する必要があります。
このようなバランスの取れる医師・産業医というのは,実はあまり多くありません。
ストレスチェックを受託する外部機関が,医師面接まで含めた(オプション)サービスを展開していますが,その面接を受託しているのはほとんどが精神科開業医の先生等であり,企業の実状を理解し,又は企業と事前にしっかり情報共有して面接をしてくれるとは限りません(こちらのページの「高ストレス者に対する医師面接をどうするか」もご参照下さい。)。もちろんその辺りをしっかり考えて面接をしてくれる医師もいますので,企業としてはどのような医師かしっかり事前に確認する必要があるということです。
厚労省のストレスチェックマニュアルでも勧められている通り,医師面接に際して企業としっかり情報共有し,就業措置等についても連携できる医師を確保しなければ,企業にとってやっかいなことになりリスクに繋がりかねないのです。
以上,リスクの話ばかりしましたが,「リスク,リスク」と言っても気が滅入るだけですので,次回はポジティブに「職場改善」の話を書くことにします。