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ブラック産業医!?復職に関して産業医が訴えられる訴訟が発生

2016-07-20

産業医に求められるスタンス

復職、特にメンタルヘルス不調からの復帰に関しては、労使間でトラブルに発展しやすく、法令や就業規則に沿った適切な対応が必要になることは、再三にわたり当ホームページでも記事にしてきました。

 

そして、そこに関わる産業医には、『客観性・中立性』が求められ、弊社ではそれを何より重視して産業医活動をしています。

それを重視する理由としては、主に2つあります。
医師という専門家であり責任ある立場の人間は、何より法令を遵守しつつ社会に貢献すべき責任があることは当然の理由です。
もう一つの理由は、『客観性・中立性』を欠けば、産業医自身が労使トラブルに巻き込まれる可能性があるからです。

実際、「産業医を訴えるには」などのキーワードで、弊社のホームページまでアクセスされる方も多くおられますし、労働者の方が「産業医に不当な行為をされました。どこに訴えれば良いでしょうか?」と電話を弊社までかけてこられて直接ご質問頂くケースも何回か経験しています。(←このようなご質問を弊社に頂いても、企業のコンプライアンス窓口や労基署・労働局に相談して下さいとしか回答できませんので悪しからず…。)

 

復職判断に関し、産業医も訴えられる時代に

今まで、産業医が職場復帰に関係して労働者から訴えられた事件としては、「病気やない、甘えなんや」と患者を叱咤した医師に賠償命令が下された事件(大阪地裁平成23年10月25日)が有名でした。
この事件は、判決文を読んでも、こんな事(「生きてても面白くないやろ」「薬を飲まずにがんばれ」等)を言えば訴えられて負けても仕方ないだろう、普通はこんなこと言わないだろうと思うような事件でした。ある意味、普通に産業医活動をしてる限りは、問題にならないような事件でした。

 

しかし本日、全ての産業医にとって他人事ではないような訴訟が提起されました。

弁護士ドットコムニュースによると、復職に関して産業医が訴えられた事件が新たに発生したようです(➡ 弁護士ドットコムニュースのサイトへリンクします。)

産業医の復職判断に関して産業医自身が訴えられるのは、かなり珍しいと思いますが、いつかこのような訴訟が生じるのではないかと個人的には思っていましたので、「ついにか…」という印象です。

 

記事によると、要旨は以下の通りです。

 

「ブラック産業医」復職認めず、退職に追い込まれた…元従業員が提訴

・川崎市の大手通運会社で働いていた労働者は精神疾患で休職したが、症状が安定したため、主治医による復職可の診断書を提出し、復職を希望した。

・しかし、産業医は3回にわたって復職を認めない判断を下し、労働者は休職から2年後、休職期間満了で退職となった。

・労働者側は、産業医が主治医との意見交換をしていないことや、職場を一度も巡視していないことを問題視している。

・産業医が面談時に「(他の大手企業なら)とっくにクビよ」などの暴言もあったといい復職を認めなかった判断は主観的で医学的な根拠がなく、結論ありきだったと主張している。

この会社は、平成23年にも同じような事例で労働者と訴訟になり、その際には会社側が勝訴しているようです。その際は産業医は被告になっておらず、労働者の上司が会社と供に訴えられています。

今回は、上司ではなく、産業医が会社と供に被告となりました。

今後、ストレスチェックも始まり、メンタル不調者への対応に産業医が関わるケースが増えていく中で、産業医も被告として訴訟に巻き込まれていくことが増えるのかもしれません

(2019年追記)
その後も、こちらの報道のように、復職できなかった場合には、会社とともに産業医(指定医)も一緒に訴えていくケースが散見されます。

ブラック産業医と言われ、訴訟に巻き込まれないためには

労働者側の弁護士は、「産業医は休職者と職場との関係をどうマッチングすべきか考えるものなのに、今回は十分な調査をしていない。今は産業医が、誰を辞めさせるか選ぶ『人事部化』している。もちろん、全員がそうではないが、会社に雇われていることもあって、会社寄りの産業医が散見される」と仰っています。

「産業医は休職者と職場との関係をどうマッチングすべきか考えるもの」というのは将にその通りです。労働者は会社にとって人財であり、労働者が幸せに働くことなくして会社の発展はありえないのですから、人財を活かすためのマッチングの観点も持って産業医は活動すべきです。

一方で、どれくらい「人事部化」「ブラック化」している産業医がこの世に存在するのかは、私自身は他の産業医の先生と一緒に働くことはありませんので、正直わかりません。

ただ、聞くところによると、ストレスチェックを行う義務のある企業に対し、「ストレスチェックは実施しなくても罰則がないから実施しなくて良い。あんなものはやっても意味がない。」と助言し、違法行為(罰則がないだけであり、ストレスチェック実施義務があるのに実施しないのは、違法です)を教唆する信じられないような産業医も確かに存在するようです。
また、『産業医がこっそり教える解雇手法』、『上手な解雇方法』や『人事の仕事にもコミットし、従業員の肩たたきも引き受けます』とインターネット上で堂々とアピールしている産業医も存在します。
  
そもそも法令で定められた職場巡視等も行わず、会社に名義だけ貸して報酬を受けているいわゆる「名義貸し産業医」はザラに存在し、名義貸し前提で地域の開業医を企業に紹介する医師会も存在しますので、そういう意味では産業医業界全体にブラックな違法行為が蔓延っているとも言えるかも知れません。

 

この記事だけでは、情報が不足しすぎており、この産業医の行為にどれほど違法性があるのか分かりません。ですのでこの事件からはいったん離れて、一般論として、ブラック産業医と言われないために最低限行うべきことを2点挙げてみたいと思います。

 

復職不可と意見するのであれば、しっかりその根拠を示すべし!

当たり前のことですが、労働者の主治医が「復職できる」と言っているケースにおいて、復職を認めない意見を産業医が出すのであれば、なぜ復帰できないと判断するのか根拠を示すことが必要です。

その根拠は、客観的で公平なものでなければなりません。

そして、そのように判断した根拠や、労働者のどの点が復帰するには足りないのか等を主治医に対しても伝えていき、連携をとる必要があります。

そのような根拠を示し、主治医とも連携していくには、産業保健及び精神医学の知識・経験が必須です。

もはやこれからに時代、片手間で産業医をできる時代ではありません。

ストレスチェックも始まり、メンタル不調者と接する機会も増えてきます。
やるからにはプロとして、専門性を磨く必要があると言えるでしょう。軽い気持ちで片手間でやっていると訴訟リスクに繋がります。

この訴訟は、企業と産業医の関係に対しても影響を及ぼす

この訴訟を受けて、多くの産業医は「訴えられるのは嫌だから、本人の希望通りに復職を認めよう」という流れになるでしょう。
未だ病気が治っておらず、復帰には時期尚早と思われる労働者に対して、精神医学に関する専門性・能力のある産業医であれば根拠を示してまだ職場復帰には早いと言っていけますが、産業医学・精神医学の知識・経験が少ない産業医は、本人の早期職場復帰の希望を安易に受け入れる方向になるでしょう。

今後、客観的に公平に見てもまだしっかり治っていない休職者について「病気がしっかり治って働ける状態になってから、職場復帰して欲しい。それが本人のためでもある。」と考える企業にとっては、いかに能力の高い・専門性の高い産業医を雇うかが非常に重要になってくると予想されます。

そして、「そもそも、復帰前に回復具合を100%正確に評価することは難しい」ことを意識して、復帰後の業務遂行能力、事例性を評価して就業規則に沿って対応する方向へのシフトも併せて考えるべきかも知れません(このあたりについては、職場復帰に関する記事4部作に詳しく書いています。)

 

名義貸し・職場巡視無しは違法!ダメ、絶対!危険です

少なくとも月1回、職場巡視をすることは産業医の義務であり、これを行っていないことは違法行為です。

(なお、記事の事件では、労働者側は産業医が職場巡視をしていないことを問題視していますが、記事の中に登場する「女性産業医」というのが、『その労働者が所属する事業場の産業医』なのか『資格としての産業医を持つ医師なのか』で違法かどうか異なります。前者であれば違法ですが、後者(その事業場の産業医ではないが、産業医資格を持った精神科顧問医・メンタルヘルス担当医等が労働者の復職判定面談をするケース等)の場合は違法ではありません。)

 

月1回の巡視をしない(=名義貸し)違法行為を行っていることと、復職の判断の適法性とは本来無関係な話なはずですが、「違法行為を行っている産業医の復職に関する判断は、信憑性・客観性も疑わしい」と思われても仕方ありません。

産業医として会社と契約しているにも関わらず、毎月の職場巡視・職場訪問をせず、会社の依頼があった時のみ訪問・従業員面談をするようなことをやっていると、このケースのように労働者から訴えられるリスクがあるということです

起こしたくないのに起きてしまう医療ミスとは違い、産業医の名義貸しは違法であることを認識しながらも故意に行っている訳ですので、医師として弁明の余地はありません

医師という社会的責任のある立場にある先生方が、なぜ明らかな違法行為に手を染めてしまうのか、個人的には以前より疑問でなりません。
医療過誤や医療訴訟をリスク・怖いと感じている先生方はたくさんおられますが、自分が故意に行っている明らかな違法行為のリスクに対しても敏感になった方が良いのではないかと思います。

実際、今回の事件のように、労働者・労働者側弁護士から、そこを追及されてしまうのですから…。

 

産業医制度の在り方に関する検討会

私は今まで、かなりの数の企業の産業医を担当して来ましたが、前任者の産業医が名義貸し状態であったところはザラに存在します。(もっとも、名義貸しの違法性やコンプライアンス上の問題に気付いた企業が、確実に毎月産業医訪問を行い名義貸しは行わない弊社までご依頼頂いているので、そのような企業が多いとも言えるのですが…。)

現在、厚生労働省で「産業医制度の在り方に関する検討会」が行われており、その中で、産業医の月1回の巡視頻度を柔軟に変更できるようにした方が良いのではないかとの議論がなされています。

確かに、作業環境等に変化の少ないサービス業のオフィス等を毎月巡視してもあまり意味がないのではないか、それよりも長時間労働者への面談やそれこそ今回のような復職面談に時間を割いた方が、限られた活動時間の中でより効果的な産業医活動が行えるのではないかとの意見も分かります。

しかし、違法な産業医の名義貸しが残念ながら横行している現状で、単純に月1回の職場巡視を義務でないと法改正すれば、名義貸しも適法ということになり、産業医活動が後退することは目に見えています。
企業としては、法律で決められているから報酬を支払って毎月医者に会社まで来てもらっている面もあるわけで、毎月来る必要はないと法改正されれば、コストカットのために「職場巡視・訪問なし。その分、安価」な産業医を希望する企業が、かなり出てくるでしょう。そうすれば、従業員が産業医面談を受けられる機会は確実に減ります。

職場の特徴に応じて「職場巡視」の頻度を柔軟に変更できるようにする(月1回未満でもOK)ということにするのであれば、それと併せて、少なくとも月に1回は「職場を訪問して(巡視は行わないとしても、それ以外の面談等の)産業医業務をする」ことを義務にするような制度に法改正しなければ、日本の産業保健は後退すると私は思います。

(産業医は役に立たないから安衛法上の産業医の役割にはもはや期待せず、その他のリソース(保健師や健診機関等)で産業保健を充実させていこうと国が考えているのであれば別ですが…。その場合、産業医としての私の仕事は減るでしょうから困ってしまいますが、日本全体の産業保健の充実の観点からすれば、喜ばしいことなのかもしれません。)

 

また、別の話になりますが、産業医の判断の客観性・公平性を担保する制度、そしてその産業医の判断に対する労使双方からの不服申し立て制度として、茨城大学の鈴木准教授がフランスの労働医(産業医)制度を紹介されています。(今年5月20日の産業医制度の在り方検討会の鈴木准教授の資料

このようにフランスでは、労働者の職場復帰等に関し、労使双方に配慮したなるべく公平な制度をわざわざ設けていることからもわかるように、『産業医が労働者の就業に関して意見を述べていく、判断していくこと』は法的な側面も含んだかなりデリケートな問題なのです。

今後、産業医の判断に関して、今回のような訴訟が頻発するようなことがあれば、このような制度を設ける議論に繋がっていくのかも知れません。

実は今回のこの訴訟は、結構深い問題提起をしていると言えるような気がします。

今後、日本の労働時間はどうなるのか?

2016-07-16

労働時間と働き方改革

先ほどの参院選では、自民、民進をはじめとした各党が、同一労働同一賃金の実現等を公約として挙げていました。

日本の正規雇用と非正規雇用の賃金格差は、日本独自の終身雇用を背景とした非常に根深い問題ですので、どこまで同一労働同一賃金が実現されるのかは現時点ではわかりませんが、議論は確実に深まっていくものと思われます。

また、参院選後、連日新聞でも「働き方改革」という文字を見かけます。

今後、労働人口が減少するのが確実な日本においては、女性・高齢者・(+外国人労働者?)の労働力を活かすことが必須になる訳ですが、現在の「終身雇用・正社員=長時間労働・全国転勤」のままでは人材活用は困難だからです(こちらの記事にもその辺りのことは書いています)。

働き方改革できるのは大企業だけ?

本日(7月16日)の日本経済新聞に、神戸製鋼所が19時以降の残業を禁止し、女性の離職率低下等に繋げていきたいと考えているという記事がありました。業務の効率化も併せて行い、実現していくとのことです。

 

大企業では、トップの決定・方針は確実に実行される傾向がありますので、おそらく神戸製鋼では19時以降の残業はかなり減るものと思われます。一方で、効率化するにも限界がありますので、夜に残業できないのであれば朝にやるしかなく、始業時間前の時間外労働が増えるかもしれません。
そうだとしても、伊藤忠商事の取り組み等でも成果が出ている通り、朝方勤務の方が全体としては残業削減効果があると言われていますので、良い取り組みだと思います。

 

一方、日本の労働者の大部分が中小企業に勤めているわけですが、基本的に仕事の発注者側である大企業が行っている取り組みを、下請側で常に納期等に追われているような中小企業が行えるとも限りません。仮に19時以降の残業を一切禁止とすると、破綻しかねない中小企業も山のように存在するものと思われます。

 

若者の意識の変化

大企業とは全く同じことはできないとしても、労働時間に関する問題を解決していこうとする姿勢は、中小企業にも必要であると思います。なぜなら、若者の「仕事とプライベートの調和」に対する意識は年々上がっているからです。

 

先週発表された日本生産性本部が実施した今年の新入社員1286人に対する意識調査でも、「仕事は人並みで十分」との回答が、過去最高の58.3%となっています。「デートか残業か」では、残業が76.9%、デートが22.6%と、ここ数年はデート派が増えているとのことです。

 

私が産業医として若い社員の方と面談している中でも、「この企業は残業多すぎてブラックですよ」とか「自分の身を守るために、労働時間の証拠を残そうと思いますよ」等と冗談めかして自虐的に仰るケースによく遭遇します。

 

労働時間を改善して行こうという姿勢を持たないと、労使トラブルに発展するリスクもありますし、また、今後労働人口が減少する中で若者に敬遠され、人材確保に非常に苦労することになってしまいます。

中小企業でもこれだけは必須!

産業医兼特定社労士の立場から、労働時間に関して、中小企業であってもこれだけは気を付けたい(=労使トラブルに繋がり易く、労働者側からしても不満・疑念を持ちやすい)ものの代表として、以下の3つを挙げてみます。

 

労働時間の管理」、「みなし労働時間」、「固定残業代」

 

(次回記事へ続く)

上司「電話していいの?」休職者「電話が怖い!」メンタル不調者との連絡について

2016-07-04

そもそも休職制度とは

休職とは、労働者が病気等で仕事ができない場合に、労働契約を維持したまま一定期間、勤務を免除する制度です。

 

労働基準法等において、特に休職制度を定める義務が企業に課されているわけではありませんので、どのような休職制度を定めるか、場合によっては休職制度自体を設けないことも企業の自由です。

 

但し、休職制度がなく、「病気になって一定期間働けない⇒すぐに解雇又は退職」にした場合、その解雇が有効かどうかは、「客観的に合理的な理由があるか、社会通念上相当であるか」の観点から判断されることになりますが(労働契約法16条)、一定程度の規模の企業において休職制度を設けずにすぐに解雇とすることは社会通念上相当でないと判断される可能性があり、また人材確保・活用の観点等からも、ほとんどの企業においては就業規則に休職制度を設けているものと思います。
 

病状報告をしてもらう必要性

このように休職とは解雇猶予措置であり、その期間中、労働者が自由に好きなだけ休める権利を与えるものではありません。労務の提供が可能な状態まで回復したのであれば、労働者には職場復帰する義務があります。ですので、現在、療養が必要で労務の提供が不可能な状態が続いているのかどうかを確認するため、企業が休職中の労働者に定期的に病状報告をもとめること(診断書の提出等)も、可能です。

 

また、休職中、本人と全く接触を持たないでいると、本人からある時突然に、復帰可能の主治医診断書が提出されることになります。

 

そうすると、復帰先の受け入れ態勢や、業務の調整などの準備ができず、企業は慌ててしまうことになります。そのような事態をさけ、復職者がスムーズに職場復帰できる環境を準備するためにも、定期的に接触・病状報告を求めることは必要であると言えます。

 

厚生労働省の手引きにはどう書かれているか

しかし、不適切な形で接触すると、こちらの記事でも取り上げたW社事件(京都地裁 平成28年2月23日判決)のように、会社の接触自体が注意義務違反と判断され、労働者に対する損害賠償義務が生じることになりますので注意が必要です。

では、適切な接触の仕方とはどのようなものでしょうか?

休職中の労働者とどのように接触すべきか、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも書かれていますので、一部引用します。

 

『管理監督者及び事業場内産業保健スタッフ等は、必要な連絡事項及び職場復帰支援のためにあらかじめ検討が必要な事項について労働者に連絡を取る。』

 

『ただし、実際の接触に当たっては、必要な連絡事項(個人情報の取得のために本人の了解をとる場合を含む。)などを除き、主治医と連絡をとった上で実施する。また、状況によっては主治医を通して情報提供をすることも考えられる。』

 

つまり、「など」に何が含まれるかの解釈にもよりますが

・必要な連絡事項(傷病手当金の手続等)を伝える ⇒主治医との連絡なしで行ってもOK

・病状、体調(=職場復帰支援のためにあらかじめ検討が必要な事項)を聞く ⇒主治医と連絡を取ったうえで行う

 

が基本であると考えられます。

 

就業規則に病状報告義務を入れる意味

 

しかし、上司等が休職者に「体調はどうですか?休んで良くなりましたか?復帰はいつごろになりそうですか?」と聞くために、わざわざ主治医に連絡をとって許可を得ることがあるでしょうか?私の経験上、そこまでしているケースは見たことがありません。実務的には、後述のように本人が嫌がったり拒否したケース以外は、本人が接触に同意したものと考えて、連絡・接触を行っている場合がほとんどだと思います。

 

しかし、厚労省の手引きでは「主治医と連絡を取ったうえで接触すべき」となっているのです。

 

もし仮に、会社と労働者の間でトラブルに発展し、「会社から接触されたことで病状が悪化した」と主張されたら、会社としては不利な状況に追い込まれるかも知れません。なぜなら、厚労省の手引きに(解釈にもよりますが)逆らった接触をしているのですから…。

 

そのようなトラブルを極力避けるためには、就業規則に以下のように定めるのもひとつの方法です。

 

例:

私傷病休職中、社員は会社の求めに応じて、病状等について定期的に報告しなければならない。また必要に応じて、会社産業医による面接を受けなければならない。

 

就業規則(=労働契約の内容)に定めたからといって、無制限に接触できるわけではありませんが、就業規則に定めない場合よりかは、会社の行為の正当性が認められやすくなると思われます

 

合理的・正当な範囲で報告を求める

就業規則で病状報告義務を定めたとしても、例えば「毎日病状を報告すること」等とするのはやりすぎです。

なぜなら、休職しているメンタル不調者は、出勤できないほど病状が悪いわけです。そして、会社から離れ療養に専念させるために休職させているのです。よって、常識的に考えて本人の過度の負担になるような病状報告義務を課してはいけません

 

一般的には、月に1回程度の報告義務であれば可能であろうと思われます。

 

また、薬の内容や病状等、医学的事項をを事細かに聞くのは、産業医などの産業保健スタッフに担当させるべきです。人事や上司が本人に聞くのは、「体調は上向いているか、それとも平行線か?」「病院へちゃんと通院しているか?」「復帰の目途について主治医から何か言われているか?本人希望はあるか?もしあれば教えてほしい」等の程度に留めましょう。

 

本人・主治医から拒否された場合の対応

産業医活動をしていると、しばしば「休職中の本人から、連絡を取らないで欲しいと言われてしまったが、どうすれば良いか」というご相談を受けることがあります。

また、まれに、休職者の主治医から「会社が接触したから病状が悪化している。どうしてくれるんだ。」とお叱りの電話を頂いたというケースも聞いたことがあります。

 

本人が接触・連絡を嫌った場合、当然ですが、まずはその理由を聞きましょう。ほとんどの場合、会社のことを思い出すとプレッシャーになる等の理由を仰ると思いますが、もしかするとそれ以外かもしれません(例えば、「電話が盗聴されている」など(統合失調症等ではありうる話です)。その場合は、直接自宅まで伺い、病状を聞く必要が生じてきます。)

その場合、その後は無理に接触することは控えましょう。病状が悪化するかもしれない認識を持ちながら、それでも接触を続けることは、実際に病状が悪化してしまった場合には不法行為責任を問われる可能性があります。

 

そのように私から企業担当者へご説明すると、「では、復帰まで一切連絡はとれないのか。いきなり主治医の復帰可の診断書が提出されるまで待つしかないのか。」と心配されますが、そのようにならないための対応方法があります。

 

連絡・接触に耐えられるかどうかも病状確認のひとつの手段

その方法とは、本人へ対し、

 

「では、主治医の先生とも相談しながら、連絡を取っても病状が悪化しない状態まで回復したら、すぐに会社まで報告して下さい。」

 

「いつ会社と連絡を取れる状態になったかは、回復経過把握の目安にしますのでご理解下さい。」

 

と通知することです。

 

これにより、復職希望や復帰可の主治医診断書をいきなり出されるようなことを避けることが、理論上はできるはずです。

 

なぜなら、「会社と連絡を取れるまで回復した状態」から「職場復帰し働けるまで回復した状態」へ移行するには、相当の時間を要するはずであり、接触可能な状態まで回復したという報告を飛ばして(または同時に)、いきなり復帰可の希望を出すことは、医学的にありえないからです。

 

さて、メンタル不調者の休職に関して、5月6日の記事から全6回にわたりお伝えしてきました。まだまだ書ききれなかったこともたくさんありますが、ご参考になれば幸いです。

メンタル不調関連の就業規則整備のポイント➁

2016-06-30

前回の記事からの続きです。

③休職期間の通算

休職期間を通算する規定がない場合、一旦復職すれば休職期間はリセットされますので、理論上は何度も休職と復職を繰り返すことも可能です。

「何度も休職と復職を繰り返し、就業規則を悪用している」かのように仰る上司や人事担当者もいます。

しかし、メンタル不調者からすれば、

・「体調が良くなったから復帰」(←正当なこと)
・「再度病状が悪くなって働けないから、ルール(休職規程)に従って再休職」(←正当なこと)
・「働けるまで回復したから、職場復帰する」(←正当なこと)
・「会社が就業規則に通算規定を定めていないから、休職期間がリセットされる」(←ルールにのっとりリセットされているだけであり、本人は関係ない)

というだけであり、何ら非難されるべきことは行っていません。 (もちろん、休む必要が無い状態なのに、病状が悪いと虚偽の主張をして休んでいる等であれば、非難されるべきことですが。)

就業規則は労使間のルールであり、また企業が自ら定めたルールでもあるのですから、それに縛られます。自分でルールを定めた以上は、ルール通りに対応しなければならないのです。

休職を何度も繰り返されるのが困るというのであれば、メンタル不調者に対して不満を述べるのではなく、就業規則を以下のように変更することを検討すべきです。

例:『復職後6カ月以内に同一又は類似の事由により欠勤ないし通常の労務提供をできない状況に至ったときは、復職を取り消し、直ちに休職させる。その場合の休職期間は、復職前の休職期間の残期間とする。』

④職場復帰基準

休職から復職する際の復帰基準を、就業規則に入れ込んでしまう方法もあります。
ただ、その際には、場合によっては就業規則の不利益変更になりますので、合理的な基準を入れ込むようにして下さい

合理的ではない基準を入れた場合は、無効になります。
合理的でないものの代表としては、「健康時と同様の業務遂行が可能であること」と復帰の要件にすることです。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件(東京地裁平成26年11月26日)の判例では、

『精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない。』

として、不合理な復帰基準と判断されていますので注意が必要です。

⑤休職中の病状報告
これについては、色々と検討すべき事項があるため、別記事にします。

メンタル不調関連の就業規則整備のポイント①

2016-06-23

前回の記事からの続きです

 

では、どのような点に注目して就業規則を整備すればよいのでしょうか?

メンタル関係でトラブルになりがちなポイントに応じて、主な点を以下に5つほど挙げてみます。

(なお、現在の就業規則を以下のような形に変えることは、多くの場合、就業規則の不利益変更に当たりますので、弁護士や社労士と相談しながら慎重に行う必要があります。)

 

①受診命令

1)初発の場合

会社で働いている労働者の方が、遅刻や欠勤が続いており、周囲の誰の目から見ても「体調が悪そう」な場合であっても、本人が「大丈夫です。放っておいて下さい。」と言い、病院受診を勧めても拒否されるケースがあります。

 

遅刻等で事例性が発生している以上、会社としてはどうにかして一度病院受診をしてもらいたいと考えて当然と言えますが、本人が拒否している場合どうなるのでしょうか?

 

裁判例では、就業規則に受診命令の定めがない場合でも、「労使間における信義則ないし公平の観点に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であることから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、従業員はこれに応ずる義務がある。」とされていますので(京セラ事件 東京高裁 昭和61.11.13)、就業規則に定めがなくても受診命令は可能です。

 

一方、就業規則で受診命令を定めれば、それは労使間の労働契約の内容となりますので、就業規則に定めのない場合の「合理的かつ相当な理由」よりも緩やかな理由で、受診命令が可能になります。

 

つまり、簡単に言うと,「就業規則に定めなくても受診命令は可能だが、定めたほうがよりベター」ということになります。

 

2)復帰後の場合

復帰したメンタル不調者には、主治医がいて治療を受けているので1)のような「受診してくれない」といった問題はあまり生じません。 

一方で、復帰後、明らかに疾病による事例性が生じており、働き続けることが難しそうにも関わらず、主治医が本人の希望を汲んで「働き続けても大丈夫です」と診断することもあり得ます(主治医の意見には、本人・家族の希望が含まれる場合もあることは、厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも記載されていることです。)

 

そのように、主治医の意見・判断に対し、合理的な理由を持って疑義が生じている場合は、会社が指定する医師(産業医も含む)に受診させ、セカンドオピニオンをとることも必要になってきます。その際には、1)と同様に、就業規則に受診命令規定があれば、スムーズに指定医への受診に繋げることができます

 

➁休職要件

就業規則の休職要件として、例えば、

1)「6カ月間連続して病気欠勤が続いた場合に、休職とする。」

というような規定になっている場合があります。

一方で、以下のような休職要件にしている企業もあります。

2)「精神または身体上の疾患により通常の労務提供ができず、その回復に一定の期間を要する時は休職とする」

 

1)の場合、「連続して欠勤すること」が休職要件となっているため、出勤と欠勤を繰り返すメンタル不調者に対して休職命令を発することはできません(労務の受領を拒否して連続欠勤と同視する方法もありますが、ここでは割愛します)。

 

企業によっては大企業を中心に、月給制で欠勤しても給与が減らない場合もありますが、1)のような就業規則の場合は、6カ月に1回だけ出勤して、給料を満額もらい続けることも理論上は可能になります(6カ月に1回しか出勤できないほど悪い病状は、就業規則の普通解雇事由に当たるのではないかとも言えますが…)。

 

そのような事態を避けたい場合は、1)のような定め方はせず、2)のような内容に変更する必要があります。

 

次回の記事へ続く。

睡眠時無呼吸症候群・てんかん等と運転業務~産業医の視点から~

2016-06-15

本日の新聞記事等で、JR東日本の40歳代運転士が制限速度の2倍近くで走行したことが報道されています。その運転士は、「意識がもうろうとした」と言っているようですが、2014年11月から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療を受けており、治療器具の使用を条件に産業医が乗務を認めていたと報道されています。

報道だけでは、「意識がもうろうとしたのはSASが原因なのか」という重要な点がわかりませんが、SASが原因であると仮定して、この事例から色々と考えてみたいと思います。

私は鉄道業界の産業医経験はありませんので、詳しいところまでは分かりませんが、鉄道の運転士に対しては国の指定する運転適性検査や鉄道会社独自の検査等が行われていると思われます。ですので、今回のケースにおいても、そのような検査では異常は見られず、また、主治医・産業医の意見としても運転しても問題ないと判断されたので業務に就いていたものと思われます。

 

そのような状況下においても、今回のような事態が生じてしまったわけです。

 

リスクを評価する

近年、てんかんや心疾患等の発作により、自動車が暴走し、一般市民を巻き込むような事故が複数生じています。弊社の産業医先もあり私もよくウロウロしている大阪梅田で今年2月、神戸三宮で今年5月に暴走事故があったのは記憶に新しいところです。

私が産業医活動をする上でも、企業様から「この社員はてんかんの既往があるが、営業車を運転させても大丈夫か」と聞かれることが増えてきています。

 

その場合、主治医の意見や現病歴、治療歴等を検討し、総合的に判断していくことになるのですが、必ず言えることは、現在症状がどれだけ落ち着いていたとしても、

 

『運転中に症状が出る可能性はゼロとは言えない』

 

ということです。

 

この『ゼロとは言えない。しかも、既往歴がある分、既往歴がない人間よりも可能性は高い。』という事実に企業としてどう対応していくかは、まさにリスクアセスメントの問題です。

リスクを評価する際には、「結果が発生した場合の重大性」「結果発生の可能性」の両面を組み合わせて考える必要があります。

報道によると、JR東日本の規則では、『SASと診断されても適切に治療を受けていれば乗務できる』ということになっていたようですが(←あくまで報道記事の内容ですので、どのような条件下で許可されていたのか詳しいところまではわかりませんが)、これはおそらく、万一運転中に意識消失が発生しても、自動列車制御装置等の安全装置の作動により、衝突事故等が生じて負傷者が出るような事態にならない、つまり、「万一、結果が発生しても死傷者が出るような重大な事態にはならない」と評価したため、SASでも乗務OKとしているのだと思います(あくまで私の予測に過ぎませんが…)。

もしこれが、仮に、SASで意識を失ったら、何百人と死傷者がでる事態に繋がるのであれば、意識消失の可能性がごくわずかでも存在すれば乗務することは会社として決して許さないと思います。

 

重度の肥満の人の自動車運転の方が危ないのでは…

そういう意味では、レールの上を走り、種々の安全装置が備わっている列車の運転はある意味安全と言えるのかもしれません。

むしろ、かなり太っておりSASが疑われる営業マンの方やバス・トラックの運転手の方が、問題視されること無く、眠気を我慢しながら車を運転していることの方が危険と言えるのかもしれません。

 

本人のキャリアとの関係

しかし実際には、「電車の運転手の意識がもうろうとするなんて、怖すぎる!」「なぜ少しでもそんな可能性のある人に運転させているんだ!」という意見が、世の中的には多数を占めるでしょう。そして、従業員が問題を起こした場合に責任を取らなければならない立場の人たち(経営者等)も同様に感じ、「少しでも可能性があるのであれば、絶対禁止すべきだ」と考えるのが普通だと思います。

確かに、そのような意見・考えも十分に理解できます。私が経営者であっても、そう思うでしょう。

しかし、産業医という労使双方の視点から物事を考えるべき立場からあえて申し上げるとと、「業務を一切禁止した場合の、労働者のキャリアに対する不利益」の視点も同時に持たなければならないと思います。

電車の運転手の例において、仮に運転ができなくなるとすると、その人のキャリアは大幅に転換を余儀なくされます。それは、本人にとって、場合によっては耐え難い苦痛かもしれません。

 

おそらくこれも私の想像でしかないですが、JR東日本においても、「安全装置により、ある程度安全が確保されており、追突で死傷者が出るようなことは無い」、「SASに対して適切な治療が行われ、症状も治まっている」という条件の下で、果たして本人のキャリアを厳しく制限して良いのかという視点があったのだろうと思います。また、それは、本人への思いやり的な視点だけではなく、そのような条件下において業務を制限して本人に不利益を与えることが法的にも許されるものなのかという視点も持たれていたのではないかと想像します。労働者の権利という点から考えると、そのような法的視点も併せ持って然るべきです。

だからこそ、『SASと診断されても適切に治療を受けていれば乗務できる』という社内ルールを作られたのではないでしょうか。

 

このように、持病と運転業務に関しては、リスクアセスメントの観点と、本人のキャリアへの影響という観点を併せ持って対応する必要があるように思います。

メンタル不調者対応における就業規則の重要性

2016-06-10

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

うつ病等のメンタル不調者の職場復帰・復職基準はどうあるべきか

メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ

メンタル不調者への復帰後の対応について

④メンタル不調者対応における就業規則の重要性 (本記事)

はじめに(前提)

この記事の内容は前回の記事の続きですので、前提として、

『職場復帰したメンタル不調者に事例性が見られる場合において、企業として「病状が悪いまま勤務すると、さらに病気が悪化しかねず本人のためにも良くない」とか、「事例性があるため周囲(顧客や同僚等)に迷惑がかかっており、甘受できない」という立場をとる場合』、
つまりは、
『再度休んでもらい、しっかり病気を回復させて、しっかり働けるようになってから職場復帰してもらいたいと考える場合』の就業規則の重要性について書いています。

ですので、全ての企業・ケースにおいてこの記事にあるような対応をとるべきと主張するものではありません。なぜなら、前回の記事にも記した通り、企業として、遅刻・欠勤等が続く不完全な状態の労務提供でも受領し続ける選択肢をとっても構わないからです。

そもそも就業規則とは

日常的にはあまり意識しないかも知れませんが、働くということは『契約』です。その契約に従って、「会社が賃金を毎月払ってくれる」から労働者は働くのであり、「所定労働日に、所定時間働いてくれる」から企業は労働者を雇うのです。

その契約の内容については、労働基準法15条で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と定められています。

しかし、労働者の数が増えて何百人にもなった場合、個々の労働者と労働契約の内容を細部まで調整して個々に管理するのは大変です。
例えば、高度成長期に企業業績がアップし、またインフレも伴って、労働者の賃金額を頻繁に上げる必要があった場合、何百人との契約をその都度個別に巻き直すのは非常に煩雑です。
そのような場合、従業員全員に適用される賃金規程のようなものを定めて、集団的かつ統一的に管理する必要性が生じます。 その必要性に応じるものが就業規則なのです。

労働契約法7条では「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」とされていますので、合理的な内容の就業規則は、労使ともに労働契約として遵守する義務があるということになります。

また、就業規則においてもう一つの重要な点は、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては就業規則作成義務がありますが(労基法89条)、就業規則の中身の決定については、労働者の意見を聴取する必要はあるものの、同意を取る必要まではなく、内容が合理的であるのが大前提ですが使用者側が一方的に決めることができるという点です(実際には、労働組合との協議など、色々あるでしょうが…)。

ですので、就業規則が後述のように整備されておらず、メンタル不調者へルールに基づいたしっかりした対応ができないとしても、それはある意味、ルールを定めることができるのに定めずに放置してきた企業の自己責任とも言えます。

たまに、「何度も休職を繰り返し、何年もほとんど働いていないメンタル不調者がいる。困ったものだ。」と仰る上司や人事担当者の方がいらっしゃいます。

しかし、そのように何度も休職を繰り返すことが可能なルール・就業規則は、国や労働者から企業が押し付けられたわけではなく、企業自身が自らの意思で定めたルールなのですから、そのルールに従って休んでいるメンタル不調者に文句を言うのは少し筋違いのように個人的には思います(文句を言いたくなる気持ちも理解できますが…)。

メンタル不調者対応と就業規則整備

事例性の生じている復帰後のメンタル不調者を再度休職させることは、本人の病状悪化防止や、周囲への負担増回避のために、場合によっては必要なことです。

しかし、メンタル不調者から見ると、「再度休むと、お金に困る」、「再度休むと、周囲からの信頼・評価を損なう」、「再度休むと、休職期間満了で退職に繋がるリスクがある」など、色々なデメリット・不利益が生じえます。

つまりそのような場合には、企業の考えと、メンタル不調者の考えが一致せず、対立する可能性があるということです。労使トラブルに繋がるリスクも存在します。

職場復帰や休職に限らず、世の中の全てのことについて言えることですが、トラブルを避けるために一番重要なことは、『事前に、両者が合意した(又は合意まではいかなくとも、法的に効力のある)ルールを作っておく』ということです。

労働契約における休職について、『事前に、両者が合意した(就業規則には労働者の合意はいりませんので、正確には”法的に効力のある”)ルール』というものがすなわち『就業規則』にあたります。就業規則を事前にしっかり整備しておくことが、トラブルを回避しつつメンタル不調者に確実に適法に対応してくためには非常に重要になるのです。

また一方で、就業規則に沿って対応してもらえることは、労働者にとってもメリットで安心できることでもあります。
なぜなら、ルールが無ければ、その時の上司や経営者の気分や独断に基づき、解雇という可能性もありえますが、就業規則に定めがあれば、少なくともその合理的な就業規則のルールに沿って対応してもらえますし、万一不当に解雇された場合には、就業規則の内容を理由にしてその解雇の不当性を主張して行くこともできるからです。

【つづく】

【お知らせ】名古屋オフィス開設で産業医面談がより便利に

2016-05-30

2016年6月1日より、弊社名古屋オフィスを開設致します。

 

住所:〒460-0008 名古屋市中区栄5丁目26-39 GS栄ビル3F

電話番号:052-241-2708

 

以前より、名古屋の企業様から産業医業務のご依頼を頂いておりましたが、弊社の面談ルームが東京・大阪・神戸にしかなかったため、面談ルームでのスポット面談サービスをご提供できずにおりました。

 

今回の名古屋オフィスの開設により、名古屋でも弊社面談ルームをご利用頂いてのスポット面談サービスのご提供が可能になりました。

 

これにより、東京・大阪・名古屋の3大都市圏で、精神科産業医によるスポット面談をご利用頂ける体制が整いました。

 

名古屋で産業医を探されている企業様や、名古屋支店は従業員数50人未満で産業医がいないが万一メンタル不調者やストレスチェック高ストレス者が出た場合にもしっかり対応できる精神科産業医を探されている企業様などは、ぜひ一度弊社までお問合せ下さい。

メンタル不調者への復帰後の対応について

2016-05-24

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

うつ病等のメンタル不調者の職場復帰・復職基準はどうあるべきか

メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ

③メンタル不調者への復帰後の対応について(本記事)

メンタル不調者対応における就業規則の重要性

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病状が悪いまま復帰した、または復帰後すぐに調子を崩してしまったメンタル不調者がいたとして、企業はその方に対してどのような対応ができるのかを考えてみましょう。

 

この際にも重要になってくる視点は、職場における健康問題に対応するための基本である「疾病性と事例性」です(疾病性と事例性については、こちらの記事もご参照下さい)。

 

復帰したメンタル不調者に対しても、まずは事例性に注目して対応を考えていきます

 

①事例性がないケース

「病状が悪いけれども、仕事はできている」というケースです(あまり無い、レアなケースかも知れませんが)。

 このようなケースにおいて企業が持つべき視点は、「確かに仕事はできている。しかし、現在の仕事をさせ続けることで、病気が悪化することは無いのか。」ということです。

 現在の仕事を続けることで病状悪化が予想される場合は、悪化を回避するための適切な手段を講じる責任が企業にはあります。これは、本人の申し出(「調子が悪いです」とか「業務を減らして下さい」等の訴え)が無い場合でも、企業の責任が免除されるものではないと思われますので注意が必要です。

 なぜなら、メンタル不調の既往があり、復帰した直後数カ月という病状不安定になり得る時期なのですから、企業には「病状が悪化するかもしれない」という予見可能性があるからです。

 企業としての責任を果たし安全配慮義務を履行するためは、仕事ができていたとしても(=事例性がなかったとしても)少なくとも復帰後数か月間は定期的に産業医面談を行い、「現在の業務で病気が悪化することはないか、または現に悪化していないか」を医学的視点からしっかり確認することが重要です。

 

➁事例性があるケース

これは、職場復帰はしたものの、遅刻・早退、欠勤、低調な業務パフォーマンス等が続く状態です。病状が回復していない状態で職場復帰し、そのような状態になってしまうケースはしばしば遭遇します。企業が対応に困ってしまうのも、このようなケースが多いと思われます。

まずは、なぜ遅刻等が続くのかを本人にしっかり確認しましょう。

もしかすると、電車が止まってしまったり、目覚ましの電池が切れたせいかもしれません。そのような不運が、たまたま復職後に偶然重なってしまっているだけかも知れないのです。そのような場合は、病気のせいではありませんから、「社会人たる者、目覚ましは2つセット」などの指導をすることになります。

 

一方、やはり病気のせいで朝起きれず遅刻・欠勤となっていたり、出勤しても集中力がなく業務パフォーマンスが低下している場合等には、どのように対応すべきなのかが問題となってきます。

選択肢その1:不完全な労務提供でも受け入れる

病気による遅刻・欠勤等があり、労働者の労務提供が不完全である場合には、債権者たる使用者は完全な履行を求める権利があるわけですが、一方で、完全な履行は求めず、不完全な状態の労務提供でも受領し続ける選択肢をとっても良い訳です。

つまり、復帰したばかりの人が再度休職になってしまえば、「本人もショックだろう」、「金銭面でも困ってしまうだろう」などの理由から、遅刻や欠勤を認めて働き続けてもらっても良いのです。

 

ただ、このように病状が悪いことを認識しつつそのまま働かせる場合には、通常よりも高度の安全配慮義務が生じますので注意して下さい。 つまりは、「病状が悪い人が、さらに悪くならないよう仕事を与え、手厚く配慮する安全配慮義務」が生じるということです。これは非常にレベルの高いことですので、産業医との綿密な連携が必要になってきます。

 

選択肢その2: 病状が悪く、事例性が生じたままの勤務は避けたいと考える

上記のように、遅刻や欠勤を認めて働き続けてもらうという判断をする企業もありますが、「病状が悪いまま勤務すると、さらに病気が悪化しかねず本人のためにも良くない」とか、「事例性があるため周囲(顧客や同僚等)に迷惑がかかっており、甘受できない」という立場をとる企業もあります。その場合には、再度休んで自宅療養してもらうことも考えなければなりませんが、その際、重要なのは以下の3つです。

事例性の根拠

遅刻や欠勤であれば客観的に評価できるため、特に問題にはなりません。

問題となりうるのは「債務不履行といえる程の業務パフォーマンスの低下」があると判断する場合ですが、その判断に際しては「なぜ低下していると言えるのか」という点と「その評価は公正なのか」という点、さらには「それは労働契約上、債務不履行と言えるのか」が重要になります。

 

なお、「なぜ低下していると言えるのか」についてしばしば経験するのが、あまり仕事ができていない理由が、「会社が仕事を与えていないから」なのか、それとも「本人の病気のせいでできていない」のかを、上司も(場合によっては本人も)意識して区別していないケースです。

後者の場合は事例性があるということになりますが、前者の場合であれば事例性はなく単に会社のマネジメント(業務配分)が悪い、本人に責任はないということになりますので注意が必要です。

 

そういう意味でも、メンタル不調者に対して長期間にわたり漫然と業務負荷を低減することは、事例性を判断する際の混乱の原因となりかねません。産業医の立場から会社とメンタル不調者の両方の話を聞くと、会社は「病気だから仕事ができない、こなせない」と評価している一方、メンタル不調者の方は「自分はできるのに、会社が簡単な仕事しか与えない」と主張されるケースもしばしば経験するところです。

 

医学的評価

事例性が病気によるものだと判断するには、上司や人事の視点だけではなく、産業医による医学的視点を必ず入れるようにしましょう。

就業規則を始めとした労使間のルール

これについては、次回に続きます。

メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ

2016-05-16

【メンタル不調者の職場復帰シリーズ】

うつ病等のメンタル不調者の職場復帰・復職基準はどうあるべきか

➁メンタル不調者の復職基準とその判断の難しさ(本記事)

メンタル不調者への復帰後の対応について

メンタル不調者対応における就業規則の重要性

復職基準に達しているか判断するために

精神疾患に関しては、他の一般的な身体疾患に比べて、客観的に病状を把握できる医学的な指標がほとんどありません

もちろん、精神状態の評価のための心理テスト等は多数ありますが、『本人の自己評価・自己申告・自己の意思に基づく言動』の部分が必ず含まれ、100%客観的な指標はほとんどありません。

例えば、胃癌であれば、胃の細胞を採取してきて顕微鏡で見れば胃癌かどうか判断できます。
癌細胞が見られない場合、本人がどれだけ「この胃の調子の悪さは、胃癌に違いないんだ」と言ったところで、診断には影響しません。

一方で、精神疾患例えば不眠症と診断するには、「寝付くまで時間がかかる」「熟睡感が無い」等の本人の話に基づいて診断することになります。(正確に言えば、脳波を測定する等すれば客観的に評価できるとも言えますが、不眠の診断にそこまでする病院はありませんし、また熟睡感等は本人の弁によらざるを得ません。)

判断の精度を上げる工夫

つまり、メンタル不調の場合は客観的指標がないため、復職基準を満たしているかどうかの判断が難しいのです。

その判断の精度を上げるために、「本人からしっかり話を聞く」という基本以外に、企業は以下のような様々な工夫をしています。

・主治医の診断書(=主治医の意見)をとる
・産業医の面談を受けさせ、意見を聞く
・復帰前には日常生活記録表などを書かせる
・リワークに通って、評価を受ける
など

企業様が、弊社をご利用頂く理由の一つとしては、「産業医+精神科医」の専門性を活かしてここの精度を上げてもらいたいというのもあろうかと思います。

工夫の限界

しかし残念ながら、これらの工夫をいくらしたところで、100%客観的で確実な評価というのは困難です。

例えば、厚生労働省の職場復帰支援の手引きに書かれている復帰基準例の一つに、

「適切な睡眠覚醒リズムが整っている」

というのがあります。

仮に、まだまだ睡眠覚醒リズムが整っておらず、夜中に何度も目が覚める状態のメンタル不調者の方がいたとします。

貯金が底をついた等、どうしても職場復帰しなければならない事情がある場合、不調を隠して、会社や産業医には「よく眠れ、途中で起きることもありません」と話す方も、なかにはおられるかも知れません。

そのような虚偽の報告をされた場合、それが虚偽であると会社や産業医が証明することはほぼ不可能です。嘘であると証明するには、それこそ毎日脳波を測定するしかないと思いますが、全く現実的ではありません。

事実ではないと証明できない以上は、「本人の自己申告が事実である=本人はよく眠れている」という前提のもと、復職できるかを判断していくしかないのです。

 

また、休んでいる期間においては、症状が回復し基準を満たしたものの、復帰後に症状が悪化してしまうケースも多々あります。

私が経験したケースでは、抑うつ症状が出ていた従業員の方が、「休んだ翌日から症状が全くゼロになった」と仰ったケースもありました。

一方、産業精神医学の分野で全国的に著名な精神科開業医の先生が主治医となっている従業員が、その主治医から「症状が回復したので復職可能」との診断書が発行され、産業医面談でも基準を満たしていると本人が自信をもって仰り復職したものの、復職後1日勤務しただけで症状が悪化し、再度欠勤状態となった方もいらっしゃいました。

このように、基準を満たすことは最低限必要であると言えますが、基準を満たしたところで、復帰後も良い状態を継続できるとは全く限らないのです。

 

復帰後の重要性

このようなことから考えれば、「復職時に、基準を満たしてもらう」ということ以外に、メンタル不調者の復職過程において重要なことがもう一つ浮かんできます。

それは、「回復しないまま職場復帰してしまった方や、復帰してすぐに病状が悪化した方がいた場合に、復帰後においてどう対応するか」という視点です。

「メンタル不調者への復帰後の対応について」の記事へ続く】 

(なお念のため申し添えますが、メンタル不調者の方が、虚偽の報告をすることを非難しているのではありません。病気が治っていなくても早く仕事に復帰したい気持ちも分かりますし、また金銭面で生活が懸かっている場合は、虚偽の報告をしてでも復帰したいと考えても、責められるべきものだとは個人的には思いません。もちろん、ご自身の病状悪化防止の観点等からも、正直に伝えて頂きたいとは思いますが…。)

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